街路には、それも大きな街ほどゴミが落ちているものだ。その中でめっきり減ったのがプラスチックの買い物袋、これはストアが税込みで1枚7セントをチャージし始めたことで、市民の意識が変わってきたせいだろう。
近頃はコロナ・パンデミックのせいで街路を汚しているのは使い捨てマスクとプラスチック製の手袋、いずれもPPEの花形(?)だが、一度道に落ちたものはなんとも汚らしい。
パンデミックの家ごもりの影響で、ペットを飼い始めた家族も多いようだが、時たま道や芝生の上に置き去りにされた排せつ物を見ることがある。これはうっかり踏もうものなら被害が大きく迷惑極まりない。
先日、買い物からの帰り道、母親と8歳ほどの娘が可愛い子犬を歩かせているのを見かけた。犬が突然立ち止まると芝生の上を嗅ぎまわり、どうやら気に入ったスポットを見つけたらしくてやおら腰を下ろして排便を始めた。女の子は戸惑った表情で革ひもを引いて歩かせようとしたがもちろん犬は動こうとはしない。やがて用を済ませた犬はすがすがしい表情で(?)歩き出したが、母親は娘に何か言い、自分のポケットから排せつ物を入れるプラスチックの袋を取り出して彼女に渡した。
この親子に近づいていた私の耳に「あなたが飼いたいって言ったのでしょう。自分の犬なのだから、あなたが世話をしなきゃね」という母親の声が聞こえ、娘は片手で犬の革ひもを持ち、片手に渡された袋を持って犬の排せつ物をピックアップしようとするが上手く行かない様子。母親は娘の手から革ひもを取り上げて助けてやっているが、排せつ物を取ることは娘に任せている。
娘は泣きそうな表情で、やっと犬の落とし物を袋に拾い上げ、助言されながら口を縛り終えた袋を、母親に渡そうとしたが母は再び静かに「あなたの犬でしょう」と言い、犬の革ひもを娘の手に返した。
片手に嬉しそうに飛び跳ねる子犬のひもを持ち、片手に青い排せつ物の袋を揺らせながら遠ざかって行く女の子と母親。
私はその2人と1匹の背に心の中で大きな拍手を送っていた。【川口加代子】磁針