第84回アカデミー賞作品賞はフランスの無声白黒映画「アーティスト」が受賞した。サイレント映画からトーキーへ移り変わるハリウッドの黄金期が舞台。落ちぶれていく大スターのジョージが、エキストラからスターに成長していく新鋭女優ペピーに支えられ復活していく恋物語だ。
 アーティストとしてのこだわり、エゴと闘いながらも、男女関係を描いた心温まるストーリーがいい。かわいい子犬が登場し、その仕草は随所に笑いを誘う。まさしくシーン・スティーラー(Scene-stealer)だ。まさに古き良き時代が味わえる。トーキー時代になっても無声映画に固執したチャールズ・チャップリンの役者人生が重なった。
 ファイナンスをしたのが、これまでアカデミー賞作品賞の「恋に落ちたシェイクスピア(1998)」「シカゴ(2002)」「英国王のスピーチ(2010)」などを手掛けたベテランのハービー・ワインスタイン氏。ワインスタイン・カンパニーの代表である彼は1年前にパリに飛び、作り手たちに直接会って、配給する決断を下し本社へ電話で報告した。
 「白黒映画なんだ」「…主演は誰?」「ジャン・デュジャルダン」「…その人って誰? あとは?」「無声映画でもあるんだ」
 その後、本社は大混乱になったという。この作品は会社の命運をかけた大きな賭けだったと認めている。無名のジャン・デュジャルダンは見事に主演男優賞を受賞。「アーティスト」は、監督賞、衣装デザイン賞、作曲賞を含め5部門でオスカーを手に入れた。
 CG(コンピューター・グラフィックス)を駆使した派手なアクション大作映画が主流をしめる今の時代に、このような異色な映画が作品賞を射止めたことは素晴らしい。そして、主演男優賞は順番的にもこれまで映画業界に貢献してきたジョージ・クルーニーだろうとの予測もあった。しがらみに甘んじることなく、外国映画だろうと外国人だろうとフェアに投票した平均62歳のアメリカ・アカデミー会員たちの決断も見事である。
 今の時代に欠けている人間愛、心の温かさの大切さをこの映画は教えてくれたのかも知れない。【長土居政史】

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です