デイライトセービング・タイムが始まり、これからの季節、南カリフォルニアでは友だちや親類などの集まりは、バックヤードでのBBQが多くなる—との説明に、まだ雪が残っているインディアナ州の知人は、寒い地方ではなんといっても鍋料理が一番と言う。
 もちろん、日中は暖かな南加とはいえ、夜ともなれば気温はまだ華氏50度台。山間部では雪も降る。鍋料理と決して無縁ではない。湯気の上がる鍋を囲むのは何よりのごちそう。比較的手間がかからず、数多くの食材をバランスよくとれ、好みの味に調理できるのも魅力だ。
 県人会の集まりには芋煮(山形県)、きりたんぽ鍋(秋田県)などが饗されるが、一般的には寄せ鍋、水炊き、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ちり鍋などが多い。
 鍋料理は複数、時には十数人が鍋を囲み、卓上で調理しながら話が弾む。至福のひと時なのだが、俗に「鍋は、人が現われる」とも言われるほどに、鍋を囲めば意外な人物像も見えてくる。よく見聞するのが鍋料理を仕切りたがる一家言ある人の存在。
 具材を入れる順序と場所、だし汁の量、火加減、味の濃淡、食べごろなど細かく指図する。世話好きなのか、知ったかぶりをしたいのか、本人は得意気なのだろうが、少々はた迷惑な存在の「鍋奉行」と称される人だ。
 権力を振り回す時代劇の町奉行や勘定奉行のもじりだが、鍋奉行より始末に悪いのが「鍋将軍」。自分の調理手順と違った方法をとると激怒する人もいて、場が白けることも。このほか、浮き上がる灰汁(あく)をすくい取る地道な作業に徹する「アク(悪)代官」。ひたすら食べごろを待つだけの「待ち(町)奉行」といった具合。
 ところで、日本の最新調査によると、鍋好き日本一は山梨県民で、日本人の3人に一人が「鍋奉行」を自認。鍋奉行の割合が最も多いのは香川県民の42%、最も少ないのが福島県民の19%だという。
 山梨には有名な鍋料理「ほうとう」があるし、福島は朴訥さが県民性の一つに挙げられているから「そんなものかな」と思うけれど、香川の場合はなぜ? 讃岐うどんと関連があるのか。いつか香川の「鍋奉行」振りを拝見したいものだ。【石原 嵩】

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