コーヒーを手に、車で家を出る。普段と変わりない出勤風景だが、この日は少し違う。それは、通勤途中に読もうと本を持ってきたこと。
 「2番線ロサンゼルス行きは間もなく発車します」
 08年の住民投票で提案R(売上税0.5セント増により今後30年で約400億ドルを捻出し、交通事業予算に充てる)が可決されたのを機に、メトロは公共交通網の充実化を図っており、鉄道路線の拡張に力を入れている。
 先週開通したエクスポラインもその1事業。16年にはサンタモニカまで路線が延び、来年着工のリージョナルコネクター開通後は、サンタモニカから小東京を通りイーストロサンゼルスまで乗り換えなしで行き来できる。
 電車通勤の日、渋滞するハイウエーを横目に駅に隣接する無料駐車場へ。ラシエネガとジェファソン交差点をまたぐように建つ高架駅からはセンチュリーシティー、ハリウッドサイン、グリフィス天文台、ダウンタウンの高層ビルが見渡せる。
 車窓から見える街並みの移り変わり、隣に座る見知らぬ人との世間話、人間ウォッチング…。車内で読もうと持参した本を開くことは、最後までなかった。
 ニューヨークやボストンの地下駅にいるような錯覚に陥るダウンタウンの7街/メトロセンター駅に到着後、地上でダッシュAに乗り換え小東京の羅府新報に到着した。
 さて所要時間はどうか。初日は信号機の故障で電車が20分遅れた上、ダッシュの乗り場を間違え2時間。翌日は順調に1時間15分。ただ渋滞しても車の方が早い上、月々の駐車場代がかからないためコストにも差がない。
 USCやLAライブ前を走る同ラインの場合、駐車場代が高く飲酒の機会が多いスポーツ観戦やイベントの際には多くの利用が期待されるが、車社会で育ったアンジェリーノが電車通勤に切り替えることはあるのか。
 キーは「利便性」と「正確さ」に尽きる。電車が手軽で安く便利な上、時間に正確でなければ車を置いて出かけることはないだろう。
 メトロが今後私たちの税金を賢く使い、路線拡張のみならず、キーとなる2点を実現させてくれれば、アンジェリーノの電車通勤も夢ではない。【中村良子】

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