一般的な話ですが、日本人に比べてアメリカ人は衛生観念が低いような気がしていました。
 買ったばかりのりんごを洗いもせず、汚いジーンズのお尻でこすっただけでガブリ、店頭に並んだぶどうを失敬して味見をする。
 物事にこだわらない大らかな国民性といえばそれまでですが、よくあれでお腹をこわさないものだと思いました。この国はチキンのフライ、ハンバーガー、ピザ、とにかく手づかみでものを食べることが多いのです。
 それでもこの頃はフルーが猛威を振るえば手を洗いましょう、うがいをしましょうと公衆衛生の基本の呼びかけもされています。
 また無関心な大衆ばかりではなく、良識のある母親たちが子供や家族を黴菌から守るために抗菌ソープやハンド・サニタイザーの品選びをしているのをよく見かけます。
 病院はいうにおよばず、ドラッグストアやグロサリーストアの店頭にもハンド・サニタイザーのディスペンザーがサービスで置かれています。アメリカ人の衛生観念をどうのこうのと言う私ですが、どうもあのハンド・サニタイザーが苦手です。
 「こうやって手をこすり合わせるだけで菌を殺して、水の無い所でも手がきれいになりますよ」と皆さん勧めてくれるのですが、アルコールの作用で、ぬるぬるしていたゼリー状の液体や泡が消えて…、さて本当に私の手はきれいになったのでしょうか。
 そこで私が、「ところで死んだ黴菌の死骸は、そのまま掌に残っているんでしょう? その手で物を食べれば、私は黴菌の死骸を食べているわけですよね」と言うと、大概の人はシラーとして「馬鹿じゃなかろうか」と口には出しませんが、軽蔑の眼差し。
 何と思われようと、レストランに入って注文の品を選んでから必ず席を立って直ぐに手を洗いに行く。この点、和食レストランではお絞りが出る。手づかみでサンドイッチを食べさせるアメリカのレストランで、どうしてお絞りを出さないのでしょう。
 友人曰く、「あのお絞りが衛生的だとは限らないわよ。あなたの嫌いな黴菌の死骸が付いているかもよ」
 それはよくわかっているだけに、言われたくない一言でした。【川口加代子】

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