今から20年以上も前のこと、私がシカゴの日系紙で仕事をしていた頃、ある日本のジャーナリストと知り合った。
 長年新聞畑で仕事をしてきた大先輩であり、いろいろ参考になることも教えていただいたが、そのひとつが、「コミュニティーが支えてくれない新聞は存続できないし、日系紙が育たない日系コミュニティーもまた大きくなれない」ということだった。
 当時の私にとって、確かに的を射た言葉であり、日系コミュニティーに支えてもらえる新聞たらんと努力し、コンピューターどころかやっとワープロを購入した頃で、記事が遅れては読者から叱られ、印刷代や諸経費の支払いに追われ、経営難と戦いながらも日系社会の情報源、ヒストリアンとしての自負は失わなかった。
 感謝祭の前後から新年号発行の準備に追われるのだが、新年号にふさわしい記事を揃えると同時に、いかにしてコミュニティーの団体や有志から年賀広告を掲載していただくかで駆け回った。その収入で一息つくことができ、一時的に「火の車」から開放されるからである。
 読者から「購読は続けますよ。一時止めていたことがあるのですが、その時偶然死亡広告を読まなくて、義理のある方のお葬式に参列できなくて悔やんだことがあるんです。新聞は大切なんです。頑張ってくださいね」と励まされ、非常に複雑な気持ちになったこともある。
 そうか、死亡広告のために購読してくださっていたのかと、落ち込んだものの、死亡記事もまた日系社会を織り成していた一本の糸、一人の日系人の歴史にピリオドを打つ、大切な情報記事なのである。
 羅府新報の経営困難を訴える社告に接し、昔のことなどほろ苦く思い出し、何とか経営難から立ち直り、健全な新聞作りを続けてもらうために、日系人社会の大切な遺産を守ってゆくために、今こそカリフォルニアのみならず、全米の日系社会の支援を望みたい。
 日系社会に興味を持つ日本の友人に、オンライン購読をプレゼントすることにした。
 微力な私にできる、ささやかな支援として…。【川口加代子】

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