日本のお笑いというエンターテインメントの形には、日本独自のものがあるのではと何となく感じていました。海外にもコメディーはありますが、あくまでも特定の人向けであることが多く、大げさな仕草や物まねなどというオーソドックスな笑いを中心としています。日本のお笑いは独特で、言葉にできないような心理や、なんとなく同感する言動、ボケとツッコミなどの瞬間的な間合いから、笑いのツボをネタにしてくすぐります。だから、子供から大人にも通用する笑いになります。ただ言葉や文化の壁もありますから、つまりは日本国内でしか通用しないガラパゴス的な笑いなのかと考えていましたが、その認識は大きな間違いであることが分かりました。お笑いという日本文化は世界に通用するのです。
 「誰も立ったことのない舞台へ」と題して始まった、陣内智則さんのお笑いライブの世界ツアー。ソウル、ラスベガスを経てついにハリウッドでの公演が行われました。もちろん全編英語でのお笑い。初めてロサンゼルスに来た日本人が、英語でアメリカ人を笑わすのです。公演前の気持ちを聞くと、「考えただけでも震え上がるくらい恐ろしい」というのが陣内さんの感想でした。それでも挑戦をし続けるのは、「挑戦した者にしか味わえない何かを手に入れたい」と思ったからだそうです。それはお金に替えられるものではなく、名誉などという他人の評価でもなく、自分自身への目標達成への充実感と、人間としての成長を意味するのではないかと思いました。つまり、自分が生きている意味を感じるということです。
 ファーストペンギンという言葉があります。はじめのペンギンが海に飛び込むと二番目や三番目のペンギンがそれに続きます。最も大切なのは、ファーストペンギンが飛び込もうと決意するまでの覚悟です。その覚悟は、相当なものだということです。「海外でお笑いをやりたい」という陣内さんの情熱が、お笑いという独自の日本文化を海外で広めるファーストペンギンとしての行動につながっていきました。私たちは、惜しみない拍手でその勇気をたたえたいと思います。【朝倉巨瑞】

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