両親から生まれて初めてもらったプレゼントをずっと大切に使いたい。すでにアイデンティティーそのもの。でも目の前には、社会の無理解と法律の壁が立ちふさがっている。そう、これは「名前」の話。
世の中には、名字であれ下の名前であれ、自分の名前が嫌いな人や、変えることにこだわりがない人もいる。姓名判断をもとに変える人だっている。ある知り合いの女性は、早く結婚して名字を変えたい。父親が故郷で会社を営む有名人。筋金入りの保守的思考の持ち主。リベラルな彼女は、名字ひとつで娘だとバレてしまうことを嫌がる。
日本のカップルは結婚を機に「二者択一」でどちらかの姓を選ばなくてはならない。実際は女性が男性の姓にすることが圧倒的に多い。しかし海外の事情は違う。中国や韓国、ベトナムなどは伝統的に別姓。タイやドイツなどでは、いまの時代にあわせて同性か別姓かすでに選べるようになっている。英米でも比較的自由に選択できるようだ。
日本にいて別々の名前を使いたければ、戸籍上は同じ姓にして通称として結婚前の姓を使うか、籍を入れない事実婚しか方法はない。
2015年に行われた裁判で最高裁は、今の民法の規定は合憲と判断した。しかし選択的夫婦別姓は「合理性がないと断ずるものではない」として「国会で論ぜられ、判断されるべき」と立法府に対応をゆだねた。
実際に、少しずつ変化の兆しは現れている。司法の現場でも裁判官や検察官、弁護士が結婚前の名前で活動でき、これからは国家公務員も原則使えるようになる。パスポートに旧姓を併記できるようにもなった。民間企業ではまだあまり進んでいないようだ。
ただこれはあくまで戸籍の名前を変えることが前提の話。女性に恩恵を与えようというような、上から目線の扱いに思えてならない。結局、きちんと法律を変えなくては本当の解決にならないのだと思う。
ああ、法的な「もうひとつの選択肢」がほしい。両親からもらった「奈緒」という名前は、素直な人間になってほしいという願いからきた。その名の通り、素直に愚直にこの問題と向き合っていく覚悟でいる。【中西奈緒】