本作でスタジオジブリ退社後初めてメガホンを取った米林宏昌監督(右)とプロデューサーの西村義明氏

 「思い出のマーニー」でアカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた米林宏昌監督がスタジオジブリ退社後初めてメガホンを取ったアニメ映画「メアリと魔女の花」が、米国で来年1月に公開されることになり、同監督とプロデューサーの西村義明氏がこのほどロサンゼルスを訪れ、映画化に至った経緯や本作の魅力などを語った。【吉田純子、写真も】

 本作は英作家メアリー・スチュアートの原作をもとに、郊外の村に引っ越してきた女の子メアリが主人公の物語。メアリはある時、森で7年に1度しか咲かない不思議な花「夜間飛行」を見つける。その花は昔、魔女の国から盗み出された魔女の花だった。この花をきっかけにメアリは不思議な力を手に入れ、魔法大学「エンドア」への入学が許可されるが、たったひとつの嘘が思わぬ大事件を引き起こしてしまう。
 プロデューサーの西村氏はスタジオジブリ退社後、米林監督とともにスタジオポノックを設立。本作はその第1作目となる。
 「米林監督は『思い出のマーニー』で小さな村で起こった話を手がけた。今回はそんな監督の特技を生かそうと思った」と西村氏。「米林監督の特技はジブリの宮崎駿監督から教わったダイナミックなアニメーション。その監督のアニメーションの力を存分に生かすのだったら元気な女の子が動き回るファンタジーがいいと決めた」と制作に至った経緯を語る。
 本作は過去の魔法物語とは異なる。それは魔法物語の多くが主人公が問題にぶちあたると魔法で解決することが多い中、本作は主人公のメアリが問題にぶちあたった時「魔法なんかいらない」と考えるところだという。「原作の中でも『自分が進む道の扉は魔法を使わず、いつも通り自分の力で開けないといけない』というセリフをメアリは言っています。米林監督もスタジオジブリというジブリマジックを失った人間として、これからはゼロから自分の力で進まなければいけない。米林監督とメアリという女の子が重なり、それがこの原作を選んだ理由のひとつにもなっている」と西村氏は話す。
 また日本では2011年に東日本大地震が発生し、その後、原発事故も発生。「震災により信頼していたものが崩れ、見えないものに翻弄される時期が続いた。見えない力は魔法のようなもの。しかしそうした魔法の力がなくなっても立ち上がり、前に進んでいく物語を描けば多くの人に共感してもらえると思った」と米林監督は話す。
 米林監督自身は震災発生時、スタジオジブリにいたという。「翌日には宮崎監督から『次の日には出てこい』と言われました。『こういう時こそ何もなかったように仕事をしろ』と。自分の道を迷ったりしないで突き進むことができるかということを、監督をはじめスタジオジブリの先輩方から教わりました」。その教えは今も心に生き続け、西村氏とスタジオを立ち上げた時も、迷わずに子供たちに何を伝えていけばいいかを考え作品作りに励んでいるという。
 米林監督がもっとも力を込めたのは、実際にメアリが魔法の力を失ってからの描写。「メアリの手のひらには魔法の印が出るが、魔法が失われ手のひらに傷だけが残った時、どうやって立ち上がり前に進んでいくかというところを力を込めて描きました」と話す。実際に完成した画面で傷が足りなかったものは監督自身が傷のタッチを書き加えたという。
 「メアリーという主人公は何か問題にぶつかってもくよくよせず、とりあえず前に進んでいく女の子。そういうのが今の世の中に必要なのではと思った。困難の中でも奮い立って進んでいく主人公の物語は子供であっても、大人であっても、日本人でも外国の人でも、いろんな人に自分の事のように見てもらえると思った」と米林監督は話した。

アニメ映画「メアリと魔女の花」の一場面 (©GKIDS)

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