その年の二世週祭は、静かに幕を閉じた。だが、ねぶたの興奮を抑えることができなかった人たちがいた。青森県人会元会長の豊島年昭さんと、ねぶた招致にかかわった有志らが中心となり、すぐさま同年秋にねぶた囃子保存会を設立。初代会長に豊島さんが就いた。
囃子会は、ねぶたフロートが「不在」でも、二世週祭のパレードに毎年欠かさず参加。コミュニティーのメンバーが制作した小さな金魚ねぶたや子供ねぶたの脇で、太鼓を打ち、鉦を鳴らし、笛を吹き、「ラッセラー」と雄叫びを上げるハネトとともに熱のこもったパフォーマンスを披露してきた。さらに、日本文化の紹介イベントや物産展にも呼ばれて演じ、郷土文化の紹介に努めた。
活発な活動とは裏腹に、大きなねぶたがないことに、メンバーは物足りなさを感じていたという。こうしたハングリー精神一つで支えた活動に、大きな転機が訪れる。2014年、豊島会長が私財を投じて青森県人の活動のための会館を購入。そこでは、水を得た魚のように、思う存分練習に打ち込み、楽器も保管できるようになった。そして、最大の喜びは、ねぶたフロートの所有だ。青森から2度、竹浪比呂央・ねぶた師らを招いて会館内で制作。紙貼りを任されたメンバーは協力し団結を強め「自分たちが手伝って作った」と誇りを抱き、ねぶたへの愛着は無論、高まった。
青森の郷土文化発信の重要な拠点を担う会館。購入当初は、「倉庫」などと揶揄されたというが、メンバーの熱意と、中型ねぶた2台と楽器という宝がぎっしりと詰まった「宝庫」となった。二世週祭のパレードの出発点にわずか1ブロックという「一等地」から、今年は初の2台そろっての「出陣」を目指す。
豊島年昭・ねぶた囃子保存会会長
二世週祭に2台、小東京に恩返し
二世ウィークが、アメリカのねぶたの原点。二世ウィークがなければ、ねぶたもなかった。二世ウィークで温めた文化とパワーをハリウッド(パレード)に持って行っているだけ。二世ウィークありきのハリウッド。
個人的には、38年間もリトル東京でビジネスさせてもらったお礼を込めたい。メンバーもそう、日本人はみんなリトル東京にお世話になっている。愛嬌を振りまき、みんなに元気を与える。感謝の気持ちを表し、がんばりたい。日本人町なのでハリウッドよりもお辞儀(ねぶたを上下に動かす所作)は多い感じがすると思う。
最初のねぶた(2007年)がなくなってから、囃子だけで出ていたが、何かつまらなかった。「何か物体を動かそう」とみんなが思っていた。ねぶたの制作を頼む時は、何ができるんだろう? 何に生まれ変わるんだろう? という夢がある。作って形ができれば、それはそれは、もう金額に替えられない喜びが出て来る。メンバーも見ている人もワーワーと喜ぶと、なおさら。ワクワクする気持ちで、2台になってしまった。でも、ねぶたを出して動かすのに、正直こんなにスポンサーがいるとは思わなかった。
LAねぶたの個性を出す
青森の期待に応えたい
本場の青森ではやらない動きをやっているので、驚かれている。ねぶたの進行と回転速度は速く、お辞儀の回数も多い。青森は、重いねぶたをゆっくりと動かすのが基本。それに対し、われわれは周りが騒ぐと、調子に乗せられて、速くなってしまう。運行前に「ゆっくり見せよう」と確認するのに、ついつい癖が出てしまう。ハネトも青森とリズムが違い、お客さんのすぐ近くまで寄って跳ねて、サービスする。青森からは、独自にどんどん発展させてほしい、と期待されているので、みんなで新しいことを考えたい。
ハリウッドパレードは、独自性を披露する格好の場だと思う。レッドカーペットがあり、ひな壇があるので、ねぶたの動きも激しくなり、みんなが張り切る。3回出たので場慣れして、お客さんに見せるエンターテインの仕方も随分、良くなった。昨年は新型だったので、新たな気持ちで臨めた。提灯持ち、ねぶたの引き手、ハネト、囃子、みんな良かった。各自が役割を果たして、賑やかに演じてくれた。ハリウッドで新しいことに取り組みたい。
菱友会30周年を祝いに行く
本場で学んで持ち帰る
青森から毎回、提灯持ち、囃子、ハネトなど、応援に来てもらっていて、とても心強い。来年は、たいへんお世話になっている菱友会(青森三菱系グループのねぶた祭囃子会)が30周年を迎えてもう、招待されている。本場の祭にアメリカンスタイルでいいのか? また、どこまで通用するのか? 不安もあって分からないけど、それまでに恥をかかせず、失礼のないように腕を磨きたい。
青森からいつも来てもらうだけでは、交流にならない。ぜひ、みんなで行きたい。みんなに本物の祭を見てもらいたい。参加したチャンスを生かして、本場の動き、本場のリズムを一生懸命勉強してもらいたい、それを持って帰ってもらいたい。
祭の血が騒ぐ
恐ろしいねぶたパワー
ねぶたは、11年やって来て、いつやっても、その時期になると、年齢を問わずに皆、血が騒いでくる。みんなで団結すると、年を忘れ若返ってくる。それは二世ウィーク、ハリウッドどちらも。二世ウィークは、日本人町でやるので、「見せなきゃ」いう感じがする。ハリウッドはまだ3年なので、緊張していて責任感があり、ゲストのような感じ。
囃子方は県外のメンバーが多く、青森県人でなくても楽しめる。それがまた、盛り上がる。今まで練習に顔を出していなかった人も、祭が近づくと突然表れ「今まで何してたんだ」と冷やかされながらも歓迎され、みんな騒ぎ出す。こんなねぶたのパワーの恐ろしさにいつも驚かされる。
2台に増えたので、メンバーも増やして賑やかにしたい。ハネトによってねぶたが生きるから。囃子の練習は月2回、第1、第3土曜の昼1時から4時まで。「客に見せ満足させよう」「ああしよう、こうしよう」と、みんながアイデアを出して教え合う。ぜひ一度、見に来て参加してほしい。みんなで騒ごう。
林均・青森菱友会ねぶた祭実行委員長
青森に刺激を与えてほしい
青森ねぶたの海外との交流はLAだけで、現地に青森県人会があって、夏に二世ウィークがあるからこそ、関係が続いていて敬意を表したい。ハリウッドは、また違ったねぶたの楽しみ方があるので、応援したい気持ちがあり、ロサンゼルスねぶたを盛り上げるつもりで、毎回参加している。
LAならではのねぶたを作ってほしい。ハネトも自由に、青森にはできないことをここではできるはず。ねぶたは、無形民俗文化財に指定されていて、決まり事があるのは、あくまで青森で運行するから。LAは自由にやって、LAらしいねぶたに独自に育てて、進化させてほしい。でも進化させてはならないのは、囃子とハネトの掛け声。これは、ねぶたの基本。それ以外は何をやってもいい。
ハリウッドに祭の原点を見る
青森に伝えるLAのねぶた熱
周りを楽しませるために、自分たちも楽しくやるのが、本来の祭。それが、ハリウッドのパレードにはあり、みんなが生き生きしている。青森のわれわれには新鮮さがあり懐かしい。日本で失われつつある、祭の原点を見た感じがする。
ねぶたはエネルギッシュで、ハネトにパワーがあって5キロの長いコースを休まず跳ねて、久しぶりに感動した。沿道にあれだけ多くのお客さんがいるので、もう少しハネトを増やせば、もっと魅力的なLAねぶたになるはず。レッドカーペットは、初めての経験で思い出になった。快感を味わったので、また来年もっと多くで参加したい。
自信持ってやってほしい
LAねぶたの支援続ける
LA囃子会のデビュー10周年おめでとう。10年という長い期間で頑張っているので、非常に上達した。音も良くなって、恥ずかしくない。だから、自信を持ってやってもらいたい。できれば、もっといろんな人たちを巻き込んで人を増やさないと、長く続ける上で、同じメンバーだけれでやるのは厳しい。
自分たちのねぶた祭だと、自信を持ってもらいたい。もっとうまくなれば逆に、青森から勉強しに来る時が来るかもしれない。その時を楽しみにしている。来年、われわれ菱友会が30周年なので、LAの人たちが青森に来てもらいたい。青森からは、二世週祭とハリウッドの両方に参加したい。青森としては、LAねぶたを支援し続けたい。
奈良佳緒里・青森県人会顧問
みんなで叫ぼう「ラッセラー!」
10年という年月をかけて、ちゃんと音が出せるようになり、今は聴いていて安心できる。本当にうまくなった。日本から来た先生に「うまくなったね」と誉められるようになって、本当にうれしい。大したもん。
最初は練習する場所がなかったので、よそで借りてやっていたけど、会館ができたことが大きい。精神的に「青森県人会の中で」という自覚、本気さが出てきて、みんなの意識が改まった。
自分たちの祭になった
みんなで作った総合芸術
二世ウィークに参加し始めた頃は、ただの「お祭り騒ぎ」だった。二世ウィークの「ヘルプ」、二世ウィークに「花を添える」感じだった。だけど、ねぶた師を呼んで、作ってもらってからまた、みんなの気持ちの中に、ねぶたに対する愛着が出てきて、本気度が増した。うれしい。太鼓、笛、鉦、そしてねぶたが揃ったことで、自分たちの祭になった。感謝する。
これからが本番
気を抜かず前進
私は県人会長の時から青森に何度も、あいさつに行き、こちらの気持ちを伝えた。(ねぶた師の)竹浪さんから「みんなが本気になりましたね。頑張って花を咲かせましたね」と言われた。いい関係を作り達成感を持って会長を辞めたけど、次の若い人たちに脈々と受け継いでもらわなければならない。豊島さんと同時に青森市から観光大使に任命されたので、もっと、もっと、頑張る。
青森の人からは「LAねぶた」と言ってもらっている。うれしいけど、これからが本番。気を抜かずに、咲かせた花を枯らさないように、前に進めなければならない。ねぶたが2台になったので、もっともっと人が必要。県人会は、県外出身の人が多いが、誰が入ろうが関係ない。大勢参加してほしい。そして、みんなで叫ぼう「ラッセラー!」