目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…
 Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護団体。ニューヨークに本部がある。今まで野鳥の名前だと思っていたが、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームス・オーデュボン(1785~1851)に由来するそうだ。彼は北アメリカの鳥類を描いた博物画集の傑作「アメリカの鳥類(Birds of America)」で知られる。
 時計は、こちらへ来て間なしに通販で買った。文字盤には12種の野鳥が描かれ、1時間ごとにその鳥が二声、三声鳴いて時を告げる。本物と紛うその声に感動して「アメリカにはこんなものがあるンよ」と、自慢げに同じ物を日本の家族に送ったことなど思い出す。
 珍しさも一段落し、鳴き声のために電池を2個余分にセットしなければならないケチ意識も手伝って、もう何年も無声にしてあったのだった。
 以来、注意していると時計の鳴き声と全く同じ声が窓の外から聞こえてきたりする。木立のせいで、野鳥が多いのかもしれない。休日にふと見たベランダに赤と黄色のきれいな鳥がいて、はっと手が止まった。私の時計が呼んだのか? まさか?
 私の子供の頃は、電池でなく、振り子の柱時計だった。垂直を確かめてネジを巻くのは父親の役目であった。親戚の家には、大人の背丈より高い大きな時計が鎮座していた。錘(おもり)のついた(3本だったか、5本だったか…)チェーンを井戸のつるべのようにジーコ、ジーコと、上げ下ろししていた叔母の姿を、飽かず眺めた覚えがある。「キーンコーンカーンコーン」厳かに鳴るウエストミンスターのメロディーは遠くからでも聞き惚れてしまうほどいい音色だった。
 ゼンマイ時計がクオーツになって、そんな光景も遠い昔のものになってしまっただろうか。
 最近は携帯で時間を知ることを覚えるのだとかで、アナログ時計の文字盤が読めない子が増えていると聞く。やれやれ―【中島千絵】

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