とんぼ川柳の親睦会の出席者。前列左から4人目が関三脚さん、5人目が森田のりえ会長

 羅府新報新年懸賞文芸「川柳の部」選者の森田のりえさんが主宰する川柳絵手紙の会「とんぼ川柳」がこのほど、ガーデナのニューガーデナホテルで親睦会を開催した。
 「とんぼ川柳」は7年前、それまで川柳を作っていた森田さんが絵手紙と組み合わせて葉書き大の紙に川柳と絵を描く「絵手紙川柳」を思いつき、「新しいことを始めるには自分でするしかない」と独自の会を立ち上げた。トンボは前にしか飛ばない、つまり「後ろに退かない」ことから武将などにも好まれた縁起の良い昆虫で、また川柳ではいろいろな角度から物事を見る複眼的思考が大事なことからトンボの複眼にあやかり、会名を「とんぼ川柳会」と名付けたという。

笑顔であいさつを行う「とんぼ川柳」の設立者で主宰者の森田のりえさん

 創立以来これが初めての親睦会。普段はそれぞれ自宅で制作し、郵便やEメールで作品を提出するという活動で、会員が一堂に顔を合わす機会がなかった。出席者は近隣に住む会員のみならず、中にはサンフランシスコや遠くケンタッキー州からも駆け付けた人もいて、今まで柳名(川柳を作る人の雅号)でしか知らなかった多くの仲間と初めて顔を合わせ、会は大いに盛り上がった。
 森田さんはあいさつで「毎月、3句を送ってくれる会員がいてこそ、句会が成り立っている」と会員に感謝を述べた。そして、会員が創作したいくつかの作品を紹介した。
 ズボン丈いつの間にやら長くなり
 ちゃんと呼ぶ友1人減り2人減り
 以心伝心言葉がなくても仲がいい

 会員がつづった心境を例えにしながら、森田さんは「誰もが年を取るに連れなくしていくものも多いが、『川柳を始めて夫婦の会話が増えた』『川柳に生きる励みをもらった』などと言ってもらえると、私もうれしい」と述べ、ほほ笑んだ。さらに、
 夫婦茶碗持っていきます向こう岸
 空腹な戦禍の子らは空見つめ

 と会員の秀作を紹介し、「身近な生活や人間の喜怒哀楽、人間そのものものを歌うのが川柳だが、川柳では社会や世の中の移り変わりを読むこともできる」と川柳の魅力を伝えた。

川柳の講演を行う「羅新川柳」選者・川柳編さん者・絵本作家の関三脚さん

 続いて、「羅新川柳」選者・川柳編さん者・絵本作家の関三脚さんが北米における日系人の川柳文化について講演した。1910年にワシントン州ヤキマ市に作られた「蛙鳴会」が創始といわれる北米の川柳界は、異国に住む日本人の特異な生活環境の中で歌われてきた。日系人が強制収容された第2次大戦中、ジェローム収容所で川柳を指導した清水基蜩師は「川柳は感情の詩、生活の記録」と説いたというが、日系人収容所で多くの人が川柳を作ったことで、戦後、北米の川柳は大きく開花した。
 関さんが日系史をひもときながら繰り出す先人の川柳作品の数々に、会場は一心に耳を傾けた。また、「優れた川柳の10の条件」がスライドに映し出された時には、大勢がペンを取り出し、熱心に書き留めていた。
 和食弁当の昼食をはさんで、エンターテインメントに、よなみのり子さんと天野詩子さんが歌を披露し、その後「句相撲」が始まった。

「句相撲」の投票で挙手によする出席者

 「句相撲」は投句された40の句を出席者が審査して、横綱・大関・関脇を決めるというもの。対決する2作品を読み上げ、「どちらの句が良いと思うか」を問う。挙手による投票を行い、行司役の軍配が上がり、句が勝ち上がっていく。審査を行う出席者の表情は誰もが真剣で、誠実に川柳と向き合う姿勢が見て取れた。
 7年前の創立当時からの会員だという小笠原さん夫妻は「森田さんのおかげで上達した。今日は会報でしか名前を知らなかった人たちに初めて会えてうれしかった」と話し、「川柳は楽しい」と口をそろえた。
 交友代表のローペス文子さんは「日本語で話す友人が欲しいという簡単な動機で始めたが、夢中になった。私から川柳と俳句を取ったら何も残らない。川柳がなかったら、いまだに補聴器も不要、入れ歯も不要、杖も不要という健康な92歳にはなれなかっただろう」と目を輝かせた。
 ケンタッキーから参加したソーリッジきり子さんは「芸は身を助けるというが私にとって川柳は脳のボケ予防。毎月絵を描いて、5・7・5を作るのは大変で、休みたいと思うことがあっても、森田さんの声を聞くと休むことができない」とにっこり笑った。
 森田さんは作家の堺屋太一の言葉として、「これからの世の中は血縁でなく同じ趣味を持つもの同士がつながっていく社会になる」という説を紹介したが、その言葉の通り、参加者の1人1人の笑顔が、絵手紙川柳の魅力を分かち合える仲間とのひと時はかけがえのない時間であることを、物語っていた。(長井智子、写真も)

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