感謝祭の休日は穏やかな天候に恵まれた。加州最悪の山火事がウソのような、雨のぱらつく寒い日もあった。山火事の最中にはあれほど望まれた雨は降らず、今になって雨が降る。今度は焼け跡の土砂崩れなど、二次災害が心配される。自然はなんと情け容赦のないものか。物質を全て失った被災者にとり、これから先は、精神的になお一層辛いホリデーシーズンを迎える。
 日本人移民の両親を持った娘は、感謝祭やクリスマスの料理を親から教えてもらえなかった。幸い料理好きで、全てをグーグルで調べ、おいしい料理を本格的にする。新家族から喜ばれ、そこに溶け込んでいる姿は、親を安心させた。伝統料理がきちんとできるのは、大切なことだとあらためて知った。
 今年は感謝祭は初めて料理をせずにレストランに行った。食べ放題の大型店は大混乱だった。あらゆる人種の家族が集まり、くつろいでいる姿は米国らしい光景だ。ターキーで満腹になった帰宅後は、家族そろって近所を一緒に歩く。よもやま話や、家族の昔話などしながら、笑い合う。
 それから家族でゲームをする。今年は趣向を変え、千個のパズル絵に挑戦する。全員が頭を突き合わせ、ああでもない、こうでもないと、絵合わせに夢中だ。やり始めは形にならず、忍耐がいる。嫌になった一人が根を上げると、誰かが、ギブアップという選択はないよ、始めたら最後まで、止められないんだよ、と釘を刺す。そして翌日、とうとう絵を完成させた。
 一緒に食事をし、散歩をし、ゲームをする。一見退屈なこの時間を共に過ごすために、遠路はるばる家族が集まってきた。互いに聞いてはいけない話題を微妙に避けながら、共にそこに居る。
 特別に何かを言うわけでもないが、いつでも帰って行ける場所を時間をかけ、心の中のどこかに作っているのかもしれない。被災者の胸の中にも家族が一緒に過ごしたたくさんの思い出があることを願ってやまない。過酷な運命の時には、それが心の支えになるだろうから。【萩野千鶴子】

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