昨年の大河ドラマ『西郷どん』のテーマ曲を思い出してみてください。心躍るようなリズムと、岩から水が滴り落ちている滝の映像を覚えているでしょうか。これは雄川の滝で、鹿児島の大隅半島にあることを聞いて、行ってきました。山の奥にあるので、駐車場からもトレッキングでゆっくり歩いて30分ほどかかります。冬から春にかけては勢いよく落ちてくる滝が圧巻ですが、それに対比して岩場の方々から染み出して落ちてくる水が、滝壺に吸い込まれてエメラルド色に染まっていく風景が実に神秘的でした。力強く1本に落ちてくる水と、あらゆるところからしみ出でてくる繊細な水。これが同じ場所で見られるのです。まるで豪快さと繊細さを持ち合わせた西郷隆盛そのものを表しているような気がしました。
心が洗われる風景の中にゆっくりと身をまかせると、『西郷どん』のテーマ曲が頭の中を巡ります。転調し静かなリズムになると、透き通るような奄美言葉の歌声が流れます。「すらちまいあがれぃ なだぼこぼさず あぶぃてぃ うらんなりゅんちゅんきゅぬ うむいー ヨーハレィヨハレィ かなむあふりてぃゆぬたむぃじ(大きく羽ばたけ 涙をこらえ 叫び出す 散りゆく人々の信念を)」と続くこの歌詞に、奄美地方の人々が苦悩の中に希望を見つけようとする深い情念を感じずにはいられませんでした。
明治新政府と対立して職を辞した西郷は、故郷の鹿児島に戻り農作業や温泉湯治をしながら暮らしていました。時には薩摩半島側から船に乗り、桜島を超えて対岸の大隅半島側に来て、うさぎ狩りやイカ釣りをしていたそうです。足をのばして雄川の滝まで来たかもしれません。その後、西南戦争での官軍の総攻撃により、50歳の生涯を閉じるまでの間、西郷は各地を訪れながらさまざまな常識にとらわれない言動をその地に残していきました。そしてその人柄が今でも伝えられ、尊敬され続けているのです。常識を壊し、自らの信念に基づいて行動をした西郷は、「大きく羽ばたけ」と伝えてくれているようです。春はもうそこまで来ています。気張っていきましょう。ちぇすと!【朝倉巨瑞】

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