2008年におきたハリウッドのユニバーサルスタジオの火災で、焼失したマスターレコーディングテープ(以下マスターテープ)をめぐり、幾人かのミュージシャンが訴訟を起こした。火災自体は覚えているが撮影用のセットなどが燃えただけで、大きな損失はなかったと報道されたように記憶する。だが実際にはセットだけにとどまらず隣接した倉庫にも被害が及んだ。そしてその倉庫内にはユニバーサルが所有する膨大な数の音楽レコーディングテープ、TVや映画のフィルム類が保管されていた。
この6月のNY、LA両タイムスの記事によれば、焼失した貴重な作品群の数は50万曲を超えるようで、それも開いた口がふさがらないほどの超有名なミュージシャンのマスターテープだ。被害のあったミュージシャンは800を超え、このコラムには入りきらない。著名なところだけでもイーグルス、エリック・クラプトン、エラ・フィッツジェラルド、エルトン・ジョン、カーペンターズ、ジュディー・ガーランド、ジョン・コルトレーン、チャック・ベリー、デューク・エリントン、トム・ペティー、ニルバーナ、B・B・キング、ビリー・ホリデイ、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、マディー・ウォーターズ、ルイ・アームストロングと、そうそうたる名が連なる。
スタジオなり演奏会場で録音され編集過程を経た演奏が、最終バージョンのマスターテープとなりCD、レコード、ストリーミング用音源などの商品が作られる。再発売される作品は通常最新のテクノロジーにより、これらマスターテープからリマスターされて市場に出る。また、録音時にはアウトテイクや未発表の別音源などがあり、一緒に保存されているケースも多い。近年発売されている40周年、50周年記念版など再発盤に入っているボーナストラックなどは、そうしたテープより追加される。今回の火災ではこうした未発表音源も多数含まれていて、音楽ファンだけの悲劇に留まらず、人類の文化遺産の大きな焼失にもなってしまった。
また映画、TVの映像関連の被害はどの程度だったのだろう。【清水一路】