われらドジャースは2017、18年に2季連続ワールドシリーズ(WS)に勝ち進んだが、いずれも最後は地元ファンの前で敗れ屈辱を味わった。29年ぶりのWS制覇を期し、17年のシーズン途中から「優勝請負人」として加入したのがダルビッシュだった。ダルは雌雄を決するWS第7戦を任されたが、滅多打ちされ2回を持たずにKOされ敗戦投手となった。
 取材で観戦していた私は、ドジャースの祝勝会のシャンペンかけ用のレインコートを持参していた。期待はもろくも崩れ、記者会見場に向った。重苦しい空気が漂う中、ダルが登壇したことを覚えている。その時使ったメモ帳を探し出し読み直してみた。
 ダルは試合をぶち壊しことに「みんなに迷惑をかけた。(球団とファンに)恩を返したかったができずに残念」などと、すまない気持ちを素直に明かしていた。
 本塁打を許した球種について「変化球がダメだった」ことから、得意のスライダーから直球に変えたという。「(この苦悩は)自分の中にしばらく残る」と言い、シーズン後にFAとなる契約については「ドジャースでやりたい」と、家族が暮らすLAを希望したが、結果が結果だけにファンの批判は厳しく契約延長は難しかったようで去ってしまった。
 このダルの悲劇から2年経った昨年末、17、18年のWSで球種のサインを盗んだ不正が発覚した。いずれもドジャースが敗れ、ファンは怒り心頭。LA市議会は、ドジャースに王者の称号を求める決議を採択したほどだ。
 ダルのサインは解読され、直球を狙い澄まして放った汚い本塁打だった違いない。不正についてダルは、ソーシャルメディアを通して「自分の中では終わったこと」とした上で「ワールドシリーズのパレードを計画しているならば参加したい」と、冗談っぽくツイート。事態の収束を願っており、スポーツ選手らしく、かっこいい。
 ダルがWSでブーイングの猛嵐が起こる中で降板した惨状を見ただけに、サイン盗みが明るみになったことで同じ日本人として救われた感じがして、何とも言えない複雑な気持ちを味わった。【永田 潤】

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