週末に、ゴッホに漬かってみた。ハリウッドで開催中の「イマーシブ・バン・ゴッホ」に出掛けたのだ。四方の壁面に映し出されたゴッホ作品の巨大な映像を来場者が見上げている、その印象的な宣伝写真だけでも「これは行ってみたい」と思わせる魅力十分だった。鑑賞後の感想は大満足。デジタル・アート・ショーに脱帽し、自分の想像力の貧困を嘆くという結末になった。
 映像技術の進歩もすごいが、どのようにしたらあんなに複雑な映像を構築できるのか。ここ、あそこと見る位置を変えて、結局4回見た。回を重ねるごとに魅力は増して、おつりも来たかというほど元を取った。イタリアの映像クリエーターが制作しており、ヨーロッパからニューヨークを経ていま、ロサンゼルス。これから同時進行で全米各地の大都市で興行されていくという。
 ゴッホの作品は美しかった。もしも私が熱狂的なゴッホファンだったら、自分にとって神聖なゴッホの世界を映像作家がいじくりまわしたことに憤慨するかもしれない。もしかしたら「あの家は右を向いていなくてはいけない!」とか言ったりするかもしれないが、私ごときは、太陽が位置を変えたり、風車が回ったり、水面に反射する街の灯がゆらゆら揺れるたりするごとに映像の世界に引き込まれた。色のきれいさが圧巻だ。大画面で見るとどれだけ細かい色とストロークが重ねられているかがよく分かる。日本の浮世絵に傾倒した模写作品があるとは知らなかった。スピンオフと言えばそれまでだがこのイベントでゴッホの魅力を再確認する私のような者も多いだろう。
 ゴッホは850点ほどの油絵が知られているというが、本作品のための習作なのか、同じような絵が何枚かあったりもする。こんなの、現代のデジタル技術ならクリックひとつではないか。ゴッホの世界にとっぷりと漬かった後は、自分のせいぜいの想像力で、もしゴッホがいまの代に生きていたらどんな作品を作るのかと想像したり、ゴッホについて調べたりしながら、残りの週末を過ごした。映像はバーチャルだがそこに身を置くという行為はリアル。その体験は特筆に値するものだった。【長井智子】

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