外にはこんなにも多くの匂いがあったんだと思わず深呼吸した。雨の日のひんやりとした空気、濡れた土や街路樹の葉っぱ、色とりどりの花、隅田川からするほのかな潮の香り。五感のなかでも嗅覚だけはこの2年間あまり使ってこなかったと実感する。
国のガイドラインで、どんな時にマスクを外していいのかが具体的に示された。さっそくマスクを取って河川敷や街を散策してみた。誰とも話をせず一人で、周りの人とも距離を置いて。呼吸がしやすいし口の周りも涼しくて気持ち良かった。でも思った以上に周囲の視線が気になった。
ガイドラインが出て2週間以上経つけれど、マスクなしで街を歩く人はまだあまり見掛けない。明らかに人が少ない通りでも十分な距離が保たれているところでも、これまでと大して変わらないマスク風景がある。
同僚との会話やいくつか関連する記事を読んでみて、私なりにまとめてみるとこういった理由があるのかなと思う。
まずは、いまだコロナは収束していないため、感染予防として続けている。場面によって着けたり外したりするのが面倒くさい。周りがマスクをしたままだから自分も外しにくいし目立ちたくない。シワ、たるみ、歯並びの悪さなど顔のコンプレックスを隠したい。小顔マスクで小顔にみせたい。匿名性を保ちたい。ついには「顔パンツ」という言葉も登場。下着を脱ぐのと同じように恥ずかしいという意味からくるらしい。
人それぞれのさまざまな心理状態が反映されているようだが、日本はもともとマスクの習慣がある国だし、感染対策としてマスクが重要であるという立場は変わっていない。マスク着用の義務を人権侵害だと訴えたり、政治情勢をも左右させたりしている諸外国とは明らかに事情が違う。
そんな中、ツアー客に限定した海外からの観光客受け入れが再開された。彼らからすると日本の感染予防のルールは厳しく、日本人の振る舞いに疑問を感じるかもしれない。でもここはマスクのマイルールを持ち込まず、楽しみながら郷に入っては郷に従ってほしいところ。この受け入れがうまくいくかどうかが、個人旅行の解禁につながるかの試金石となるのだから。(中西奈緒)