久しぶりに、八王子車人形の五代目西川古柳家元と再会の機会を得た。
 前回お会いしたのは5年前アジアン・インプロブ・アーツ・ミッドウエストの「リダクション」公演でシカゴデビューをされた時だった。今回の渡米は八王子車人形の紹介と、来年1月にシカゴで開催予定の公演のためのファンドレイジングを兼ねたもので、五代目家元自らがシカゴまで来られた。
 私は通訳を兼ねてワークショップに同席させていただいた。家元の意図を米国人の人形遣いあるいは人形遣いを目指す参加者に、十分伝えることができるかどうか不安だったが、にこやかで気さくな五代目と弟子のトムさんに支えられて何とか3時間の大役を果たすことができた。
 古代、自然現象のすべてを理解できなかった人間は、それらを神の存在と置き換えて理解しようとした。そして神への祈りは多く生身の人身御供とともにささげられ、それがいつか人型となり人形へと変わっていった。つまり「人形は神と人間をつなぐメッセンジャーであった」というお話。
 そして約160年前、東京における文楽人形の衰退を食い止めようと、初代西川古柳家元が考案した一人遣いの八王子車人形は五代目の今、国際的にその存在を知られるようになった。伝統を守り、しかし伝統に固執しない前向きの姿勢が古典を今日まで引き継いでこられた大きな理由だろう。
 歴史の話はともかく、後半は17人の参加者が、それぞれ悪戦苦闘しながら実技に取り組み、その難しさを体験した。
 五代目がこうしてシカゴで車人形の伝統や技術を紹介している間も、日本では息子の柳玉さんが、家元が磨き上げた芸の重みを受け継ぎながら、さらにハイテクを駆使して新しい舞台の工夫を続けている。
 「柳玉さんが頑張っておられますね」
 と話しかけると、
 「何だか分かりませんがやってますねえ」
 と応えた家元の優しい笑顔に、頼もしい跡継ぎにかける期待があふれていた。
 来年正月、芥川龍之介の作品を下敷きにした新作をさげてシカゴを訪れる八王子車人形古流座の公演が今から待ち通しい。(川口加代子)

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