作品のアイデアやこだわりについて話す堤監督(Photos by Mina Nobuhara / Hollywood News Wire Inc.)

 ネットフリックスで配信中のミニシリーズ「ONI〜神々山のおなり」は、日本の伝統文化や民話を題材にしたアニメーション。監督はアニメ制作を手がけるトンコハウスの共同創始者の堤大介(ダイス)だ。作品のアイデア誕生の経緯や制作でこだわった点などを聞いた。
  本作の誕生の経緯を教えて下さい。
  ぼくはアメリカに住んで30年になりますが、アメリカで、しかも映画業界で日本人としてやっていく中で、日本の文化を、日本人の声で表現する機会がなかなかなく、いつかやってみたいという思いがありました。なので、今回、監督の機会をいただいた時、日本の民話で何かできないかと真っ先に思いました。日本で鬼と言えば悪いやつらですが、それはかつて外国人や元々日本に住んでいた先住民など、いわゆる日本人とは違う見た目の人たちのことを鬼と言っていたんではないかという説があって、ぼくはそれがすごく面白いなと以前から思っていました。自分たちとは違う人たち、自分たちが理解できない者たちへの恐怖。それが暴走すると彼らは敵になり、悪者になるという風に…。まさに今の、ぼくらが生きている時代と変わらないんじゃないかってね。
 すごく昔の話なのに、ものすごく現代性があるこのコンセプトは、今こそ表現しなきゃいけないと思い、そこからストーリーがスタートしました。ぼく自身、外国人として生きてきて、いわゆるよそ者であることの気持ちや知らない者への恐怖、アメリカに来たばかりの時に感じたアメリカの文化やアメリカ人に対する恐怖、逆に相手がぼくに感じた恐怖というものを身に染みて経験していましたからね。今、10歳の息子が日系アメリカ人として育っていますが、彼も恐らく、自分はどこに属している人間なのかということに悩んで成長していくのかなと思うと、こういう作品を作ることによって、「自分のままでいいんだよ」ということをインスパイアできればという思いもありました。
  本作は日本在住のスタッフも多く参加していますが、外国暮らしで日本を外から見てきた自分と彼らの間で温度差はありませんでしたか?

なりどんのイラストを披露する堤大介監督

  面白いことに、最初はぼくが外国人として長い間生きてきた経験が鬼というコンセプトとつながったパーソナルなものだったんですが、実はみんなも同じような経験をしていることが分かったんです。本作の企画がスタートした時、ピクサー時代に同僚だったプロデューサーを引き抜いたんですが、彼女にこの話をした時、すごく分かると言ってきたんです。彼女はケンタッキーからサンフランシスコに出てきて、よそ者感を味わった。日本のスタッフも、田舎から東京の大学に出てきて、教室でみんなと違うって感じていたという経験などを話してくれました。外国人でなくてもよそ者という感覚を味わったことがみんなあったので、あまり温度差がなくやれたのではと思っています。外国人、鬼、人間、妖怪という表面的なことよりも、自分がこうあるべきだと思う自分と本当の自分との狭間で揺れるっていう経験は誰もがしていると思うんです。
  おなりたちが必死に上達させようとするクシとは、奇魂(くしみたま)のことですね。
  実は、「クシ」という言葉を知らなかったんです。今回、歴史のコンサルタントとして入ってくださった方がいろいろ教えてくださった言葉をうまく使いながらストーリーを作りました。その一つが「クシ」の力でした。
  「クシ」だけでなく、しめ縄の紙垂(しで)など、本作は日本の伝統文化をできるだけ正しく伝えようとしている姿勢をあちこちに見ることができ、うれしく思いました。特にこだわった点、注意した点を教えてください。
  最初の脚本は岡田麿里さんという大好きな脚本家に日本語で書いていただきましたが、最終脚本は英語で作りました。そして、制作はほぼ英語で全部やりました。スタッフは日本人だけじゃなく、グローバルでしたから。そこがこの作品のすごく大事なところだと思いました。日本の文化を汚さないようなものを作りたいという思いがあったので専門家に付いていただきましたが、日本の外の人たちにもちゃんと分かるようなバランスも取りたくて、そこにすごく気をつけました。例えば、「弁当」。英語版でも「弁当」という言葉が出てくるんですが、おなりが忘れていった弁当をなりどんが渡す時、最初は「My Lunch」って言うのだけれど、その後は「弁当」って言う。やり取りでランチは弁当だって分かる。その辺はこだわりました。お客さんも日本語覚えてくれたらうれしいなという気持ちもあったので。
  フカフカしたテクスチャーのキャラクターやリアルな森の描写、エンドクレジットの紙芝居など、CGとストップモーション(コマ撮りアニメ)をミックスしたハイブリッド・アニメなのでしょうか?
  本作は100%CGです。元々、コマ撮りでやる予定だったんですが、ストーリーの後半がドラマチックになっていくので、コマ撮りではちょっと難しいなと思って、最初の段階でCGに変更しました。元ピクサーの人間が中心になってやっているので、CGは得意分野。どこをどう使えばいい表現ができるかはかなり分かっていました。その反面、コマ撮りは新しい挑戦だったので、エキサイティングではあったんですが、本作をやるには経験がなさ過ぎると判断してコマ撮りでの制作をあきらめました。ただ、コマ撮りの見た目がとても好きだったので、みんながコマ撮りと勘違いするかのように、手に取って触れるような世界観を作りました。
  今回、エンドクレジットにも日本人の名前がたくさん出ていて、誇らしい気持ちになりました。日系人・日本人を起用したことで、監督としてかなりうまく進められた部分があったのではないでしょうか? 
  まさしくそこは絶対にこだわろうというのがありました。英語版でも日本語の単語が結構出てくるので、発音が日本語になるようにしたかった。最初のキャスティングの段階で日本人や日本人の血が入っている役者、日本のことを分かっている人、日本語に興味がある人を起用しようってね。そして、そういう役者さんを結構雇うことができました。そのおかげでうまく行った部分と言えば、この物語の中心的役割を果たす踊りの場面、「どんつこつこつこ、わっしょいわっしょい」です。あれは、日本人じゃないと難しいんですよね。だからそこは、日本語を話すキャストを中心に、文字通り音頭を取ってもらいました。日本人でなければ、難しかったと思います。
  音楽についてどんな演出をされましたか?
  音楽を担当したザック・ジョンストンとマテオ・ロバーツは、2人ともぼくらトンコハウス(堤大介とロバート・コンドウが共同経営する制作会社)が作ってきた映画のほとんどすべての音楽を担当してくれている作曲家コンビです。映画音楽の作曲家は、通常、映画の最終段階で参加して、映像に音楽を当てていくんですが、彼らとは脚本ができる前からやり取りを始めました。おっしゃる通り、いくつかのシーンは音楽が先に出来ていて、そこにストーリーをはめていったくらい、彼らの音楽に引っ張ってもらいました。2人は本当に素晴らしい音楽家です。今回、日本がテーマということで、アメリカ人の彼らはすごく気にしていて、日本の伝統音楽も含め、ものすごく勉強した上で、彼ららしいポップなサウンドと上手くバランスを取って作曲してくれました。今回、本当に音楽に引っ張られたと思っています。
  奥様の芽以さんは、同じアニメ業界の先輩、宮崎駿監督がご縁を結ばれたのですか?(奥様はスタジオ・ジブリの宮崎駿氏のめい)。
  ぼくと妻は小学校1年生の時の同級生なんです。だから、ぼくは、宮崎駿作品を見る前から、「となりのトトロ」が公開される随分前から彼女のことを知っていて(「となりのトトロ」のメイのモデルは、芽以さんと言われている)、ぼくの初恋の人だったんです。当時、彼女はぼくのことを好きじゃなかったみたいですが、ぼくの思いが何十年後かに実った。大人になってから初めて、宮崎駿と彼女が関係あるって知ったんですよ。
 「ONI〜神々山のおなり」は、ネットフリックスで配信中。(はせがわいずみ)

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