髙木紀久子さん

 ロンドンでスタートした現代アート見本市として知られる大型アートフェア「フリーズ・ロサンゼルス」が2月16〜19日、サンタモニカ空港で開催された。訪米中の東京大学大学院総合文化研究科/芸術創造連携研究機構・特任助教の髙木紀久子さんが日本人アーティストを中心に今年の展示について紹介する。

サンタモニカ空港で開催された「FRIEZE LA2023」

 今年は22カ国から120を超えるギャラリーが参加し、これまでにない規模となった。また、フリーズプロジェクトと呼ばれる多様な企画展示が市内に分散して展開され新しい意欲的な取り組みが見られたほか、日本人アーティストの作品が複数のブースで取り上げられ注目を集めた。
 メイン会場となったイーストサイトでは、ドイツのケーニッヒギャラリーがベルリン在住の塩田千春を紹介。作品は17日の段階でほとんど完売しており人気を博した。塩田は生と死という人間の根源的な問題に向き合い、場所や物に宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に制作している。

塩田千春 の作品。3月末にはハマー美術館で「塩田千春展」が開始されるという

 塩田は立体、写真、映像など多様な手法を用いるが、今回は黒い糸による平面作品、赤を基調としたドローイング、ブロンズのオブジェなどが紹介された。ギャラリーディレクターによると、フリーズでの塩田の展示はロサンゼルスのハマー美術館で3月末に開催される「塩田千春展」のイントロダクションという位置付けであるという。
 同会場では、他にもポーラ・クーパー・ギャラリーが1950〜60年代の日本の前衛芸術運動「具体」の中心人物であった田中敦子による絵画を紹介していた。また、ブラム・アンド・ポーは奈良美智の代表的な女の子のキャラクターのドローイングと立体作品を取り上げていた。
 一方、バーカーハンガー会場には、フォーカスと題してアマンダ・ハントとソーニャ・タマドンの共同キュレーションで選ばれた18のギャラリーが集った。ここでは移民に関する物語や、歴史の検証に関するアーティストたちの鋭い目を探ることができる。

哀愁とウィットを交えた自由な筆致で提示する 出津京子 の作品

 この会場では、2018年にロサンゼルスに出来たギャラリーで、日本の現代アートに注力するノナカ・ヒルが、出津京子の絵画作品を紹介している。同ギャラリーのナターシャ・ガルシア・ロマは「出津は日本の伝統的な習慣や女性に対するステレオタイプといった女性にまつわるポリティクスについて、悪夢などをモチーフに哀愁とウィットを交えた自由な筆致で提示する」と説明した。また、フランスのギャラリー・フランク・エルバスでは、小川待子と神山易久のセラミック作品が目を引いた。小川は陶土とガラスを組み合わせて成型し同時に焼成するという独自の技法を用い、素材が元来持つ物質としての魅力や、土が発揮する内なる力に着眼して制作。神山は伝統的な穴窯を用い、信楽焼の火による造形を現代的に捉え直した。

陶土とガラスを組み合わせて成型し同時に焼成するという独自の技法を用いる小川待子の作品

 さらに、サテライト会場のビラ・オーロラではフリーズプロジェクトの一つ「アゲインスト・ザ・エッジ」を開催。ケリー・アカシが「Heirloom」と題して展示していた。アカシの親は第2次世界大戦中に強制収容所で暮らした経験を持つ。ビラ・オーロラは大戦中にドイツ系ユダヤ人や反ファシスト作家に対する支援や交流の場になったという歴史的経緯があり、アカシの家族の歴史との間に類似点が見られ、作品とサイト環境の関係性がもたらすものが興味深いと言える。

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