
男子ラグビー7人制国際大会(全11戦)は第6戦のHSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ・ロサンゼルス大会を2月25、26の両日、カーソン市のディグニティー・ヘルス・スポーツパークで開催した。10カ国11都市(香港で2回開催)を回る世界規模のイベントである。今季大会は昨年11月香港の開幕戦で始まり、ロサンゼルスはコロナ禍で短期間シリーズになった昨年8月以来、半年ぶりの開催だ。
日本代表ヘッドコーチとして新たに就任したのは英国出身のサイモン・エイモー。2016年リオデジャネイロ五輪で英国代表ヘッドコーチとしてチームを銀メダル獲得に導いた。これまでの数年間7人制男女日本代表のテクニカル・ディレクターを務めた実績を買われての抜てきである。コーチ陣には元イングランドの7人制代表(22年引退)で7人制大会358最多トライの世界記録を保持するダン・ノートン元選手をスポットコーチ(臨時コーチ/単発コーチ)として招いた。ノートンのアドバイスは日本選手たちにとって心強い励みとなることが期待される。新キャプテンは林大成(たいせい)が選任され、新布陣でこのシリーズに臨んでいる。
25日朝、悪天候の大雨が続く中、前夜に試合決行を既に発表済みのため、定刻通りに大会は幕を開けた。気温は摂氏7度の冷え込み。日本の初戦はいきなり強豪フィジーと対戦。雨が一時的にやんだかに見えたが、再度降り出し始める。滑るボールに、足はもつれ何度も転ぶ選手たち。グランドには所々に水たまりができ、走るたびに水しぶきが上がる。当初敵陣に果敢に攻める日本だが、自力に勝るフィジーがボールを奪うと一気に60メートルの独走トライを献上。日本のタックルミスも多く、一瞬の隙を見逃さないフィジーの巧みなステップとパスワークで、常にボールを保有され数分ごとにトライされ、終わってみれば良い所なしの50—0(前半26—0)の惨敗。
16カ国代表が4チームずつの4組に分かれ1チーム3試合の予選だが、日本はフィジーの他、同じく強豪のオーストラリア、そして最近メキメキ頭角を現してきたケニアと同組となった。

オーストラリアとの2戦目は、開始1分にいきなり、ディフェンスが崩れた真ん中を突破され、50メートル独走トライを許す。数分後日本がラインアウトから左、右、左へと揺さぶりをかけながらラインを展開し、パスを受けた丸尾崇真(たかまさ)が左中盤に水しぶきを浴びながらスライディングしての初トライで7—5(その後の2点のコンバージョン・キックはミス)。しかしまた反則とタックルミスで、連続してトライを献上し、前半19—5で折り返す。後半は、双方による反則やミスが続き膠着(こうちゃく)状態。5分過ぎ自陣からオーストラリアがディフェンスラインをステップでかわして80メートルほど快走し真ん中にトライ。試合終了直前、残り30秒、ベテランの副島亀里(かめり)が身長190センチ、体重98キロの巨体を生かして強引にトライを返す。激しい雨にもかかわらず観客席から熱狂ラグビーファンたちのひときわ大きい声援を受けるが、結果は10—24で2連敗。
ラグビーのプレーで最も多いエラーが前にボールを落とすノックオン。相手ボールのスクラムから再開になるルールだ。視界も見えにくい上に、滑って投げづらく、パスを受ける側も取り損ねるシーンがしばしば。見ていて仕方ないと必死に踏ん張る選手たちに共感するも、ポロポロと落とすたびに落胆のため息もエコーする。どのチームにとってもコンディションは全て同じ条件だ。ターンオーバーとはディフェンス側がボールを奪いオフェンスに転ずることを指すが、目まぐるしいターンオーバーのオンパレードは7人制の醍醐味(だいごみ)でもある。
会場で目立ったのはフィジー、サモア、ケニアの国旗を掲げての応援だ。国際色豊かな雰囲気を味わえるラグビーならではの真骨頂である。
予選最後の第3戦の相手は、番狂せで既に12—7でオーストラリアを破ったケニア。パワーと体格に勝るケニアの怒涛(どとう)の攻撃で開始3分トライ。しかしその後のコンバージョン・キック(2点)を外し5—0。日本はディフェンスでなんとか敵の勢いを食い止め、薬師寺晃(こうき)が右コーナーにトライ。難しい角度のコンバージョンも決め7—5の逆転。両チームミスが目立ちながらも攻防戦が続く。お互い疲れ果てた感じでその後無得点のまま試合終了。大方の予想をくつがえしケニアを破り日本は今大会初勝利を収め、翌日へつなげる自信にもなった。台風警報により、あられも降り、グランドの一部が白く染まり、午後に試合が2度中断されたが、なんとか第1日目の予選全試合終了。日本は1勝2敗で、2日目の下位8チームによる順位決定戦(9〜16位)に回った。
2日目は、前日と打って変わって雨も止み快晴の天気。驚くほど水はけもよくグランドの状態も良さそうだ。観客の数も増えた。対戦相手は徐々に力をつけてきたウルグアイ。9位を目指す準々決勝戦だ。

日本は自陣でしばらく攻めあぐんでいたが、敵のペナルティーからボールを奪うと、味方のサポートもあり、確実にボールをつなぎ2分半あたりで、キャプテン林が走り込んで左中盤に先制トライ。幸先の良いスタートを切った。コンバージョン・キックも決まり7—0とリード。その後はウルグアイが攻め続け、一瞬ディフェンスラインが乱れたスキを抜けてトライ。コンバージョン・キックも決まり7—7の同点になる。前半終了前、日本が反則し、気を抜いた間に、ウルグアイが突進し、左隅に逆転トライ。コンバージョン・キックも決まり14—7に点差を広げる。後半は両チームとも、攻撃のチャンスを生かせない。逆に言うとディフェンスでうまく阻止していた。残り3分、自陣に攻められた日本はゴール10メートル前で副島が意図的に相手ボールをふさいだとレフェリーに解釈され、重大な反則として2分退場のイエローカードを受けてしまう。ウルグアイは日本の1人足りないディフェンスラインをうまく攻めて、追加のトライ。ゴールは決まらず19—7。さらにリードが広がる。その後、副島は復帰したが日本は反撃できず、時間切れで試合終了となった。
次は13位決定に向けての準決勝戦で、相手は南米大陸の国が続きチリ。開始早々のキックオフで、宙に浮いている選手をつかみ落とす危険なプレーで、日本のジョシュア・ケレビがいきなりイエローカードを宣告され2分間退場。1人少ない日本はディフェンスを踏ん張り続けたが、ボールを回され、真ん中にトライを献上。コンバージョン・キックも決まり7—0。ケレビが復帰後すぐに反撃し、林が右中盤にトライを返す。しかしすぐさま、チリが日本のミスタックルでディフェンス突破。60メートル独走し左隅にトライ。難しい角度のコンバージョン・キックも決まり、14-5とさらなるリードを得た。最後のワンプレーで、前半時間が切れても日本は自陣からボールを巧みに回し続け、野口宜裕(よしひろ)が左中盤にトライ。皆で勝ち取った価値あるトライで、観客からも声援が湧く。コンバージョン・キックも決めて14―12の2点差まで詰め寄る。後半は開始早々チリが積極的に攻めて、ほぼ真ん中にトライ。19—12で再度点差が広がる。残り3分弱日本は自陣から反撃開始。ボールをグランドいっぱいに右へ、左へと展開して、松本純弥が切り返しのステップで敵2人を振り切り右中盤にトライ。落ち着いてコンバージョン・キックも決めてついに同点に追いつく。
残り時間20秒。チリに真ん中を走り抜けられるが、追い上げて後からの果敢なタックルでノックオンのミスを誘ってピンチを免れる。最後のワンプレーはチリのラインアウトのボールを受け取った松本が、再び巧みなステップで4人のディフェンダーを振り切って逆転トライ。ハラハラドキドキの試合内容。24―19で今大会2勝目を挙げる。
日本の今大会最後の試合は米国との13位決定戦。試合開始、日本のミスタックルで米国がいきなり独走トライ。コンバージョン・キックも決めて7—0。日本のミスが続いてさらに1トライ献上。しかし米国もミスが目立ち、日本は前へ前へと攻め、最後は副島からのオフロードパスを受けた野口が真ん中に見事なトライ。コンバージョン・キックも決めて12—7。追い上げるかに見えたが、米国のスター、ペリー・ベイカーにトライを決められ、17—7で前半を終える。後半、日本はノックオンなどのミスが多くチャンスをつかめない。米国は3トライを追加し、31ー7のスコアで試合終了。日本は今大会2勝4敗14位、シリーズ総合順位は16位となった。

決勝戦は、力をつけてきた新鋭アルゼンチンと、現在総合ランク1位のラグビーの最高峰ニュージーランド。白熱した試合内容に、観客も大いに盛り上がった。ここぞという時に力を発揮する強豪ニュージーランド(ニックネームはオールブラックス)がシドニーの前体会に続いてシリーズ2連続優勝を遂げた。定番の「ハカ」のダンスも披露し、会場を沸かせた。
ラグビー仲間に誘われて久しぶりに応援に来たサンディエゴ在住のクリス・ハンガーさんは「7人制ラグビーはオフェンスとディフェンスが一瞬に切り替わり、常にアクションとスピードを持ち合わせたエキサイティングなスポーツ。進化している日本のラグビーにも期待している」と笑顔で話した。
地元ロサンゼルスのゴジラ・ラグビークラブチームに属する埼玉県出身で在米22年、ラグビー歴33年の村石良之さんは「ぶつかり合って敵味方本気でプレーした試合後は、仲良くなれるのがラグビーの魅力」と、選手の立場からノーサイドを強調する。応援するチームは「もちろん日本。そして15人制でも徐々に力を付けてきたアルゼンチンも好きだ」と満足そうに語った。
今年9月にフランスで15人制ラグビー・ワールドカップが開催され、来年24年夏には7人制が五輪種目として競技される。今季セブンズシリーズが5月下旬のロンドン大会で終了した時の結果で、開催国のフランスを除く上位4チームがパリ五輪の出場権を獲得する。ラグビーファンにとってはますます目が離せない。(長土居政史)
