今季から大リーグで導入されたピッチクロック制度。試合時間短縮を目的に、投手はボールを受け取ってから走者なしで15秒以内、走者ありで20秒以内に投球しなければならない。打者にも適用され制限時間終了の8秒前に打席に入って打つ準備を完了する必要がある。違反した場合は投手はボール一つ、打者はストライク一つのペナルティーを受け痛手となる。フルカウントで違反すれば、四球または三振となり、ファンがブーブー言い出さないかと気がかりだ。
 投手と打者の対戦では、球種やコースを決める捕手とのサインのやりとり、走者がいる際のクイックモーションなどの駆け引きは、野球の見どころの一つである。その「間(ま)」は、相撲の立ち合い前の仕切りのような感じがする。大相撲の千秋楽で優勝を決める大一番と、野球の九回裏2アウト満塁で一打出れば逆転サヨナラ勝ちといった場面の緊迫感はよく似ていて、たまらないスリルがある。その大切な「間」が失われないかと心配だった。
 新たなルールに適合するために、選手は長年のルーティーンの時間を削るのに苦心したようだった。一方、見る側はすぐに慣れたような気がする。今季私は3試合見に行ったが特に苦言を呈する必要はないように思えた。むしろ昨年比で1試合約30分も短縮され、その分家に早く帰って時間を多く過ごすことができ、うれしい。だが弊害もあり、ビールの売り上げが減ったらしい。ファンの飲む「ピッチ」が早いペースの試合進行に追いつかないのは、酔っぱらって試合の時短を忘れたのか、誤算だったようだ。
 大リーグでは地元チームが大負けしているとファンはとっとと席を離れ、それにつられるように他の観客までゾロゾロと球場を後にするのをよく目にし、「100ドルの席なのに…」と、もったいなく思う。だが、時短となれば我慢して残って見るかもしれない。そしてファンの応援はきっと大逆転を呼ぶだろう。
 期待の大谷は9日夜の登板で2度目の違反をしてしまった。打撃ではまだないものの、投打の双方で気を配らなければならないのは「二刀流」の宿命なのか。人一倍努力し、人の倍の役割をこなし、人の倍活躍し、人の倍の苦労を背負う大谷。逆境を乗り越えた先にさらなる進化が見られることだろう。(永田 潤)

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です