ゲームのコードについてテトリスの開発者アレクセイにアイデアを提案するヘンク(左)
                   ©Angus Pigott ©Angus Pigott @Apple@Apple

 筆者も含め、多くの人がハマったゲーム、テトリス。「落ち物パズル」の元祖で、さまざまなゲームにそのアイデアが引き継がれ、ゲーム業界に多大な影響を与えた。本作を見るまで、テトリスが日本と深い縁があることを知らなかった。
 主人公は「テトリス」にほれ込んだ、当時、横浜でゲーム会社を経営していたヘンク・ロジャース。演じるのは、本作でエグゼクティブ・プロデューサーも務めるタロン・エジャートンだ。実在の人物で、日本人を妻に持つ役だけに、劇中、日本語のせりふにも挑戦している。
 「キングスマン」シリーズでブレイクしたタロンは、映画「ロケットマン」でエルトン・ジョンを好演して認知度をアップ。しっかりした芯を持ちながら親しみやすい人柄で、スター然としないタロンは、人好きのする憎めない役ヘンクを演じるのにピッタリの俳優だ。ヘンクが冷戦時代のソ連に単身乗り込み、鉄のカーテンのさまざまな障害をチャーミングな人柄で乗り越えていく様子も、タロン自身の魅力と相まって違和感なく見ることができる。
 ヘンクと意気投合する「テトリス」の開発者アレクセイ・パジトノフ役には、ロシアの俳優一家出身のニキータ・イフリモフ。ソビエト連邦政府の一員であるまじめなコンピューター技師と思いきや、子煩悩でユーモアのセンスも持ち合わせた人間臭さを微妙なさじ加減で演じている。
 「テトリス」の版権も政府関係組織が管理するという社会主義国家。政府が常に目を光らせており、はみ出た行動をするとよろしくないことが待っているというソビエト連邦の動きは、ウクライナ侵攻が終わらないロシア連邦の行動を理解する一助になるような気がした。共産主義国家から連邦共和国へと変遷を遂げるも、現行政府は旧態を維持し続けているのではと思わせるシーンが登場するからだ。
 さて、本作で注目したいのが、ヘンクの妻、アケミに扮(ふん)した長渕文音(あやね)。人気シンガーソングライターで俳優の長渕剛の娘である彼女は、面影は母親で元女優の志穂美悦子をほうふつとさせる。ニューヨークの演劇学校で演技を磨いた文音は、これまで多くの日本人女優がハリウッド作品で見せてきた「日本でしか通用しない演技」ではなく、ハリウッドスターのタロンと渡り合える存在感で欧米流の演技を堂々と見せている。
 折しも「スーパーマリオブラザーズ」の映画版で再び注目を集めている任天堂だが、同ゲームのゲームボーイ版に続いて発売されたテトリスは爆発的ヒットを記録した。本作では、ゲームボーイ開発の過程も描かれ、ゲームファンを喜ばせる。また、任天堂の3代目社長・山内溥が登場し、任天堂を世界的企業に育てた山内のビジネスに対する姿勢も垣間見ることができる。
 テトリス 横浜でゲーム会社を経営するヘンク・ロジャースは、ロシアのコンピューター技師が開発したテトリスの将来性を瞬時に見抜き、版権獲得に奔走する。冷戦時代のソ連、任天堂、英国のメディア王など、巨人たちを相手にヘンクはどうやって「テトリス」の版権を手に入れたのか!? 有名ゲーム「テトリス」の世界的ヒットの舞台裏を、実話を基にフィクションで描く。(はせがわいずみ)

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