両国の国技館で行われている令和6年大相撲初場所、上位陣も万全ではなく13日目を終えて2敗が3人という状況、果たして誰が初場所を制するだろうか。激しい優勝争いを別にして、私が注目しているのは東前頭10枚目、モンゴル出身39歳の「玉鷲」である。11日目に若元春に押し出しで敗れ7勝4敗となったが、この日幕内出場回数が1283回となり、新聞報道によると、安芸乃島に並んで歴代7位になった、とある。
 大相撲は格闘技のプロスポーツだが、珍しく体重や体格上のクラス別はなく、「マワシ」(フンドシ)だけの裸一貫。まったくの力と技で争う競技である。通常は15~16歳くらいから相撲部屋に入門し、親方や先輩力士の厳しい指導と稽古でもまれながら力士へと成長してゆく。
 大相撲は江戸時代から続く興行相撲で、頭髪はまげを結い冬でも浴衣と草履で通す。鍛え抜かれた百キロを超える巨体の力士同士が直径15尺(4・55メートル)の丸い土俵で勝負を競う。立会いで激しくぶつかり合い、付き・押し・投げと素手で戦うからけがが絶えない競技である。最近はモンゴルをはじめ世界各地から力士を目指す若者も多く、番付表の国籍は多彩である。
 そんな力士たちに混じって玉鷲は大きなけがもせず、怒った顔も見せず、勝っても負けても土俵に敬意を表し、淡々と一場所15日間を務めている。家族をこよなく愛し、趣味が料理とは珍しい。今場所の勝敗は別にして、私はそんな玉鷲を応援している。
 モンゴルではスポーツに縁がなく、食料技術大学生。お姉さんが東京大学大学院に留学しており、モンゴル出身の力士も多いので興味を持ち東京へやって来た。街で見かけた力士の後をついて行くと井筒部屋へ。井筒部屋の鶴竜に旭鷲山を紹介してもらい、片男波部屋に入門した異色の力士である。
 ネット情報では、次男の誕生日に初の幕内優勝を遂げている。そんな特異な経歴を持った玉鷲関には、どうか生涯大きなけがをせずに温和で人当たりの良い力士であってほしい。今年も出場回数は伸びるだろう。そんなユニークな玉鷲を応援しながら今年の初場所を楽しんでいる。(若尾龍彦)

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