
令和5年度外務大臣表彰で、ロサンゼルスにある日本食・日本酒を輸入販売する「ミューチュアル・トレーディング社(MTC・本社ロサンゼルス)」で酒スペシャリスト部のディレクターを務める上野俊男氏に対する伝達式がこのほど、総領事公邸で催された。上野氏は、家族や同僚、取り引き先の代表らが見守る中、曽根健孝総領事から表彰状が贈られた。

外務大臣表彰は1984年に始まり、国際関係のさまざまな分野で活躍し、日本と諸外国との友好親善関係の増進に特に顕著な功績があった個人および団体の功績をたたえるとともに、活動に対する日本国民の理解と支持を一層深めることを目的としている。上野氏は2021年に農林水産省より「日本食普及の親善大使」を任命されるなど、長年にわたり米国での日本食および日本酒の普及に貢献したことが評価されての受賞となった。
上野氏は、MTCが経営する日本酒専門学校「Sake School оf America(SSA)」の校長を兼務している。和酒(日本酒、焼酎、蒸留酒)に関する教育訓練の場として優秀な人材を育成しており、10年の創立以来2800人以上の酒スペシャリストを世界へ送り出した実績を誇る。同校は日本最大の日本酒ソムリエ資格認定団体である「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI=Sake Service Institute International)」や、「日本ソムリエ協会(JAPAN Sommelier Association)」、世界最大の醸造・蒸留酒教育委機関である「WSET(Wine & Spirit Education Trust)」、「Society of Wine Educators」といった権威ある団体からの承認を得て教育を行っている。
上野氏によると、米国で日本酒は日本食レストランが多い都市部で人気があるものの、全米規模ではワインの消費が圧倒的に多いという。ワインの研究にも力を注いだのは、顧客の中にもマスターソムリエやマスターワインが多くいるためで「彼らの輪の中に入っていこうと思った。彼らと同じ考え方を持って、ワインの表現を引用し、ワインと同じ特徴や言葉を使って日本酒の説明をすれば理解してもらえる。『いくら日本酒はおいしくて料理に非常に合う』と話しても、日本人が言えば手前味噌になるだけ」。また「マスターソムリエはワインを学ぶ大勢の生徒に日本酒の良さを伝えてくれるので、一生懸命説明して、彼らに『日本酒というすごい酒がある』ということを知らせることが大事」と力説する。

ワイン業界との積極的な交流に努めた結果、「今では向こうから声をかけられるようになった」。ソムリエ育成を目的としたイベント「SommCon」などのセミナーで講師に招かれ日本酒、焼酎、日本産ワインを紹介したり、料理学校として世界一と評されるナパの「Culinary Institute of America Greystone」や「Napa Valley College」などのワインプログラム客員講師、ワイン専門学校「Napa Valley Wine Academy」と「Texas Wine School」の日本酒講師を務めたりしている。米国のみならず北南米大陸の各地、欧州、中国などで開催される世界トップレベルのワイン/スピリッツの鑑評会の審査員にも選ばれている。一緒に審査員を務めた人が大手酒販業者「BevMo!」の幹部だったことから意気投合して商談につながった例もあり、「業界のトップが集まり情報交換ができる場にいることが大事」と力を込める。MTCが最近開校したインターナショナル酒スクールのためにイギリス、フランスなどで啓蒙活動を行うなど、多忙な日々を過ごしている。
上野氏は02年にMTCに入社し日本酒と焼酎の専門知識を身に付けた。日本国外での日本酒普及活動が認められ、16年には日本酒造青年協議会から「酒サムライ」に任命された。現在はMTCの酒スペシャリスト部のディレクターとして人材を育てる立場にあり、「彼らがワークショップでいい仕事をして、お客さんから喜びの声を聞くととてもうれしい。彼らの活躍が私の成績で、私へのご褒美と思っている」と、部下の成長を一番に喜ぶ。

日本酒メーカーに対しては、「2千年近い歴史を持つ酒文化を築き上げてきた」と敬意を表す。「酒はすごい飲み物だと思う。麹(こうじ)をつくるために夜中に起きて、徹底して温度管理を行う。ここまで綿密に作られた酒は世界のどこにもない」と言い切り、「そこまでして手間暇かけて作られた酒を紹介して売ることを誇りに思う」と胸を張る。
一方で、日本メーカーの国外におけるセールスの消極性を指摘し「もっと海外に出て、すごい酒だという自信と誇りを持って売り込んでほしい」と願う。ワインと比べた日本酒の優位性について「オールナチュラルで添加物が入っておらず酸も少ないため、翌日にのどが痛くなることがない。これで日本酒を好きになってくれる人が多い。そういうことを説明するべき」と提案する。
米国で日本酒の消費が伸びている理由を「日本食レストランがあるからこそ」と説明するが、「日本酒はあくまでも、料理の『脇役』。主役であってはならず、料理を盛り上げるのが役目。料理を楽しむために酒を飲んでもらえればいい」と勧める。世界的な人気になった日本食の特徴を「四季折々の旬の食材を用いるが、素材の良さを引き出すためにあまり味付けをしない。食器を季節に合わせて選んだり盛り付けを含め見た目がきれい。自然食、発酵食が多く健康にいい」と褒める。

上野氏が入社した頃は、MTCは主催する日本食の見本市を本社駐車場を利用して開催していた。当時は「日本酒はわずか1ブースしかなかった」と振り返る。見本市は年々規模を拡大し、数年前からはパサデナに会場を移し開催し、日本酒は30ブース以上にまで増えた。「だが、まだまだ日本酒は酒類全体の数パーセントに過ぎない。特に欧州ではもっと広げなければならない。これまで教えた何千人という生徒と共に日本酒を広めていきたい」と意気込む。
「日本酒を日本料理と一緒に楽しむのは当然なので、これからは西洋料理と一緒に飲んでもらいたい。サンタモニカやビバリーヒルズのレストランで、オイスターやロブスターを食べながらシャンパンの代わりに日本のスパーリング酒や吟醸酒を飲んでもらうのが私の夢」と目標を高く持つ。「オイスターやロブスター、カニなどの魚介類を食べる時はワインよりも日本酒の方が合うことを口で説明するよりも、実際に飲んでもらうとすぐに分かってもらえる。ブランチで米国人のお客さんがおいしそうに日本酒を飲んでいる顔を見てみたい」。
外務大臣表彰については、「励みになるが、まだまだスタートという感じがする。日本酒をさらに広く、さらに深く勉強し頑張りたい」と、慢心とは無縁だ。日本政府から2度顕彰されたことで愛国心は強まり、国策である日本の食材と国酒の輸出拡大に関心を強め、「日本へ恩返ししたい。人口減少などの要因で日本国内における消費量は減る傾向にあるので、海外で日本食と日本酒・焼酎を普及させ、日本の経済に貢献したい。日本食と日本酒のファンを世界に増やすことで、日本に興味を持つ人が増え、訪日しておいしい日本食を食べてもらえればうれしい」と希望する。

