羅府コラムニスト小川弘子さんの音楽エッセー

 5月26日に、ロサンゼルス・フィルハーモニック(LAフィル)は、この夏でLAフィルを去るグスタボ・ドゥダメルの後任の次期音楽監督として、ダニエル・ハーディングを迎えると発表しました。任期は、来年2027年秋からの6年です。発表の翌日に行われた、ハーディングも出席する記者会見に行ってきました。

 ドゥダメルがニューヨーク・フィルハーモニックの次期音楽・芸術監督に就任するためにLAフィルを26年夏に去る、と発表されたのは、23年2月でした。大スター指揮者となったドゥダメルの後任探しには、「3年3カ月24日」(記者会見でのLAフィルCEOの言葉)を要し、オーケストラメンバー3人を含む9人からなる委員会で熟慮に熟慮を重ねた結果だということです。3年の間に、次は誰かといろいろ考えてはいたのですが、これほどの大物が来てくれるとは、かなりの驚きでした。

 後任に決まったダニエル・ハーディングは、イギリスのオックスフォード出身の50歳。高校生の時に、当時バーミンガム市交響楽団首席指揮者だったサイモン・ラトルのアシスタントとなり、その後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者だったクラウディオ・アバドにもアシスタントとして雇われ、弱冠21歳でベルリン・フィルを指揮。同じ年に、世界最大規模の音楽祭であるイギリスのBBCプロムスで、史上最年少指揮者として登場するなど、若くしてキャリアをスタートさせました。

 これまで、スウェーデン放送交響楽団、マーラー・チェンバー・オーケストラなどの音楽監督、パリ管弦楽団の首席指揮者などを歴任し、24年にローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の音楽監督となる一方で、世界中の主要なオーケストラや歌劇場、音楽祭で客演指揮者として大活躍しています。一方で、エール・フランスの非常勤パイロットでもあるという異色の存在です。

 ハーディングとLAフィルとの出会いは、彼が22歳の時。毎年6月に行われるオーハイ音楽祭に招かれて振ったそうで、その時の写真をつい最近見せられて、とても恥ずかしかったと笑っていました。近年は、ウォルト・ディズニー・コンサートホールおよびハリウッド・ボウルで共演しており、その時の印象、相性、リーダーシップ、音楽性などが、今回の就任の決め手となったとのことです。

 来日の回数も多く、特に、11年3月11日に起きた東日本大震災の当日に指揮をするコンサートのために東京に滞在中で、1801席のチケットは完売済み。大混乱の中、会場のすみだトリフォニーホールにたどり着いた105人の聴衆のために、コンサートは開催されました。翌日以降の公演はキャンセルとなりましたが、3カ月後にハーディングはチャリティコンサートのために再来日し、終演後はロビーで募金箱を持って寄付を募ったのです。これらの経験は、彼の人生や音楽に対する考えや取り組み方に大きな影響を与えたと語っています。記者会見の後に少し話しをする機会があり、本当に日本が好きだということが強く感じられました。

 27年秋からの初シーズンは、すでにほとんどの内容が決まっているそうで、ハーディングらしいプログラミングが楽しめるのは28年秋以降になりそうです。せっかくなので、大道具や舞台背景などのないコンサート形式で構わないから、ぜひオペラも振ってもらいたいものです。ドゥダメルの17年間とは違った雰囲気になりそうで、新たなLAフィルが今から楽しみです。

おがわ・ひろこ


神戸大学教育学部音楽科卒、同大学院修士課程修了。声楽、器楽、合唱、バレエなどのピアノ伴奏者、および合唱指導者。現在、南加日系合唱連盟会長。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

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