羅府コラムニスト小川弘子さんの音楽エッセー

  2009年10月から17年にわたり、ロサンゼルス・フィルハーモニック(LAフィル)を率いてきた指揮者グスタボ・ドゥダメルが、音楽・芸術監督の座を去る日が来ました。8月20日から23日まで、LAフィルの夏の活動拠点であるハリウッド・ボウルで、「セレブレーティング・グスタボ・アット・ザ・ボウル」と題して、4日間連続でコンサートが開催され、私は、1、2、4日目を聴いてきました。

 1日目がベートーヴェン作曲交響曲第9番、いわゆる「第九」をメインとするクラシック、2日目は中南米の音楽、3日目はグラミー賞15冠に輝く米ロックバンド、フー・ファイターズとのコラボ、最終日は6月24日にドゥダメルの祖国ベネズエラで起きた地震へのベネフィットコンサートとして、趣旨に賛同した数多のミュージシャンとの共演でした。ドゥダメルがその設立と発展に大いに貢献してきたユース・オーケストラ・ロサンゼルス(YOLA)のメンバーが、1、3、4日目に出演していたことも忘れてはなりません。

 ウォルト・ディズニー・コンサートホールでのドゥダメルのLAフィル音楽監督就任ガラコンサートの5日前、2009年10月3日にハリウッド・ボウルで行われた「ビエンベニード グスタボ」と称した歓迎コンサートで指揮したのが、「第九」でした。「すべての人々が兄弟になる」というメッセージ性の高い歌詞を持ち、かつ、交響曲というジャンルの最高峰と考えられているこの曲を、LAフィルでの最初と最後に選んだのは、指揮者としての自らを表明するのに最もふさわしいと考えたからなのでしょう。

 2日目は、結成以来60年近く最も有名で影響力のあるラテン音楽のバンドとして活動し続けているロス・ティグレス・デル・ノルテ、こちらもラテン音楽ファンなら誰もが知っているバンドであるロス・パンチョス、女性バンドのマリアッチ・レイナ・デ・ロス・アンヘルスなど、ラテン音楽一色でした。もちろん、ドゥダメルとLAフィルも出演したのですが、客席はノリノリで、踊る人、歌う人、スマートフォンをペンライトのように照らす人などなど、ハリウッド・ボウルが巨大なライブハウスになったかのようでした。

 4日目最終日には、ドゥダメルが17年を振り返って、若造だった自分を街全体で大歓迎してくれたこと、17年の間に自分も変わってきたこと、今や自分もアンジェリーノだと感じていることなどを話し、LAフィルメンバー、そしてロサンゼルスに感謝の言葉を繰り返しました。スクリーンでベネズエラと8月10日に大地震に見舞われたコロンビアに対するメッセージが映し出され、寄付も呼びかけられ、次々とミュージシャンが舞台に上がったのですが、この日のハイライトはなんといっても、21世紀を代表するバンド、コールドプレイのクリス・マーティン。ドゥダメルとは個人的にも親しいマーティンが、この日のために作詞作曲した歌を披露したのですが、しんみりするのではなく、クスッと笑わせながら親しい友を送り出す、とてもセンスの良いステキな曲でした。

 ドゥダメルは今後も、違った立場で、回数はぐっと少なくなりますが、ディズニーホールでLAフィルを振る予定です。寂しさはありますが、新しい音楽監督ダニエル・ハーディングの下で徐々に変わっていくであろう新しいLAフィルにも、大いに期待したいと思います。

おがわ・ひろこ


神戸大学教育学部音楽科卒、同大学院修士課程修了。声楽、器楽、合唱、バレエなどのピアノ伴奏者、および合唱指導者。現在、南加日系合唱連盟会長。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

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