パイオニアは各方面にいる。日本人の野球選手で、その言葉が最も似合う男、野茂英雄元投手が、10日の始球式でドジャー球場のマウンドに再び上がる。恩師で当時監督のラソーダ氏や野茂の現役最後の監督のヒルマン・ベンチコーチ、名勝負を演じたマクグワイア打撃コーチなどとの再会も楽しみだ。
 ロサンゼルスに住む日本人の野茂への思い入れは、ひと際強く、崇拝者はかつての感動を忘れはしない。日本選手が皆無だった大リーグに彗星の如く現れ、並み居る強打者を相手に臆することなくバッタ、バッタと三振を取ってくれ、日本人として誇りに思った。
 球場に行くとアメリカ人ファンから「HIDEO(英雄)の意味は何なんだ?」とよく聞かれた。「ヒーローだ」と答え「正にそうだな」と、意気投合して盛り上がったことが懐かしい。
 そのヒーローが、ドジャースに再入団した絶頂期を私は記者として取材する好運に恵まれた。派手な活躍とは裏腹に、マウンドを降りると寡黙であった。当時のチームは貧打に喘ぎ、得点力不足による敗戦が多かったが、試合後は誰を批判することもなく、失投などをただ自責するのみ。ふた桁奪三振などの好投も自賛せず「次ぎ頑張る」とだけ言い残し、前を向いた。そして黙々と投げ続け、勝ち星を重ねる。「不言実行」という言葉の意味をこの時、初めて思い知った気がした。2度の無安打無得点試合の快挙を成し遂げたが、数々の記録には無関心だといい、男の生き様を見せつけられ心を奪われた。
 イチローを筆頭とし先週、ニューヨークで引退セレモニーを行った松井などが海を渡り、野茂の後に続いた。特に今シーズンはオールスターゲームにも選出されたダルビッシュ、岩隈に加え黒田の3投手が、ふた桁勝利を挙げるなどの活躍を見せ、ファンを楽しませてくれている。すべては、野茂から始まった。
 始球式は、われわれがパイオニアに感謝を伝えるチャンスでもあり、ぜひとも球場に足を運んでもらいたい。功績を忘れることなくこの舞台を演出した上に、5万体のボブルヘッド人形をファンにプレゼントするドジャースの粋な計らいに敬意を表したい。【永田 潤】

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