「アメリカには、オレオレ詐欺はありませんか」。師走の日本で尋ねられた。
 高齢の母がまとまった額を預金から引き出したいと言うので私が電話で問い合わせると、「お宅に伺います」とやって来たJA(かつての農協)の青年職員。そんなことで自宅まで来てくれるとはと、サービスのきめ細かさに驚いたが、それだけではなかった。高齢者が大金を引き出そうとすれば、オレオレ詐欺の被害者ではないかと、確かめることも任務の一つだったらしい。
 誰にも騙されてはないと判断の後、その場にいた私がアメリカ在住だと知ると興味が湧いたらしく、先の質問となった。「近頃はご本人確認がより厳重になり、お客さまから苦情もあります…」と苦笑しつつ。
 オレオレ詐欺は、「オレだよ、オレ」と子や孫を装って電話をかけ、「会社の金を失くした」とか「使い込んでしまった」などと言って助けを求め、送金させて大金をだまし取る犯罪だ。初めの頃はATMで振り込ませる場合が多かったが、近頃は、高齢者に現金を引き出させ、直接または宅配便などで受け取る手口が多いらしい。
 しかし私の知る限りアメリカは、親子の愛情の絆は強くとも、金銭に関しては子は早くから自立している国だ。電話で窮状を聞かされた親や祖父母が、富豪でもないのに、息子や孫の失敗の尻拭いに即座に何万ドルも出すなんて、聞いたことがない。「そんな詐欺は聞きませんね」と答えたことだ。
 これに対し日本は、大学進学費用も通常は親が負担するなど、親子の金銭的つながりが長く続く。つましい暮らしで子供の進学・結婚費用を捻出する日々が過ぎ、年金暮らしとなっても生活は質素なまま。そのため意外と数百万、数千万円と持っている高齢者も少なくなく、再び息子や孫のためならと金を出すのもあり得ること。思えばオレオレ詐欺は、こういう事情に乗じた「非常に日本的」な犯罪に違いない。
 ところで、アメリカ帰国の際、「親の介護のため」と日本滞在の理由を説明すると、「そんなことで?」と入国審査官に不審がられたことがある。これもまた文化の違いのためだったろうか。【楠瀬明子】

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *