あと一週間で8月という日、カルヴィン満生が逝ったというニュースは人から人へ、電話で、Eメールで、テキスト・メッセージで、静かにしかし素早くシカゴの日系コミュニティーに広がった。
 カルヴィンは日系三世の弁護士でコミュニティーリーダーの一人として本業の他に、日系墓地の管理団体である日本人共済会の会長、日系諸団体のアンブレラ的組織シカゴ日系評議会の会長など、一枚の名刺には書ききれない肩書きと責任を背負っていた。
 シカゴ地区のアジア系弁護士協会を設立したのも彼であり、アジア系で最初にイリノイ州の商務委員会の会長を務めたのもカルヴィンだった。
 そして実に多くの一世や二世の遺言書の作成や、突然なくなったシニアの財産整理、身寄りのない二世の後見人として合法的な財産管理など、サービス料金を無視した奉仕をこなした。
 弁護士でもない私のところへ転がりこんできた面倒な、しかし見捨てておけないケースを、何度カルヴィンのところへ持ち込んだことだろう。
 「この方は財政面で苦しいようなので、サービス料がどれほど払えるか…でも請求書は送ってください」と頼むと、「うん、払えれば払ってくれるだろうし、駄目なら仕方がないね」
 日系高齢者の世話をする時の彼は、まるで息子が祖父母に話すような温かな雰囲気があった。
 シカゴの日系社会が一世のためにと初めて建てた敬老ナーシング・ホームを、経営破綻のために専門業者に譲渡することを委員会が決定発表し、事情を説明するためにコミュニテイー・ミーティングを開いた時、次々投げられた鋭い質問や怒りのコメントの矢面に立たされたのがカルヴィンだった。
 ヘッドテーブルに並んだ委員会のメンバーは書類に視線を落としたままで、彼だけが冷静に、夫々の質問に誠実な態度で答えていた。
 チャペルに入りきれない会葬者がホールにあふれていた葬儀の席で、ふとあの夜の長い会議の様子を昨日のことのように思い出していた。
 去る5月、67歳になったばかり。「棺を蓋(おお)いて事定まる」というが、彼がコミュニティーに残してくれたレガシーを再評価するべきだと思う。【川口加代子】

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