昨年暮れ近く、新聞に大きく出た記事に驚きました。三菱重工業の社長が記者会見で、大型客船受注で2400億円もの大赤字を出したが、その背景には自社の恥ずべき古い体質があると語ったのです。
 三菱重工といえば戦艦武蔵や零戦などを手がけ、技術力には定評のある会社です。特に造船は本業中の本業、その船作りで何が起こったのでしょう。受注した船は寸法的には経験のあるサイズ、船を造ることには自信がありました。ところが、デジタル化が進み、全客室で快適にインターネットにつながらなければならない。客室のセキュリティシステム、ビール醸造装置、蛇口をひねるとワインが出る装置などが求められ、壁の塗装、タイルも何度もやり直し、船というよりファッション感覚で高層ホテルを造るような感じだったそうです。気付いたのは時代の流れとともに、客のニーズは、物を造るだけでなく、客が望むサービスや快適さをいかに実現するかが求められていたのです。写真で見ると受注した船はクルーズ船のようです。より高い要求があったのはうなずけます。開発中の国産ジェット旅客機「MRJ」も似たような問題が起きているそうです。
 10カ月と見込んだ基本設計に3年以上を費やし、材料を調達しては取り消しの繰り返し、費用も開発期間も大幅に膨れました。会社は組織の統制がよく取れて、上意下達で上が言うことはきちっと素直に聞き、自ら問題提起はしない。社内の自前意識が強く、すべて自社内でなんとか頑張ろうとする。消費者との接点が少ない重厚長大の大企業には、残念ながら時代の変化に柔軟に対応する体質が欠けていたといいます。最近は、AI、IoT、VRなど、ITの急激な発達が家庭用機器だけでなく、自動車や住宅、医療や街まで変えようとしています。これは一企業に限らず、全産業共通の問題ではないでしょうか。
 私はこの記事を読み、これを記者会見で話した社長の勇気に感動しました。そしてこの会社はきっと体質改善できると確信しました。素晴らしいトップをいただいた三菱重工、新年がきっと素晴らしいスタートとなるでしょう。【若尾龍彦】

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