日本語補修校のイベントでクジが当たり、長男が空手道場で1カ月無料クラスを受けることになった。次女も興味を示し一緒に参加したいと言う。運動神経は悪くないが継続することが苦手なタイプなので、どの程度の気持ちで参加するのか聞いてみた。「スキルを増やしたい」と即答した次女。「ふむ、それならば」と私は追加の出費を了承した。次女は日頃から自分の履歴書に「スキル(特技)をたくさん書き込みたい」と口にする。書道もそろばんも英検も平々凡々な段級位でやめてしまった私にはない発想だ。
初めて日系人の履歴書に対する意識の高さを知った時は正直なところ驚いた。2世の知人は年齢が50歳前後で家族持ち、勤続20年以上の公認会計士。会話をした当時の彼は、夜間の会計クラスで講義を始めたばかりだった。聞けばボランティアで教えているという。「子どもたちの面倒も見てとても忙しいはずなのになぜ?」と尋ねると「レジメをもっと良くしたいから」と言う。
終身雇用制度がおおむねの日本人の感覚では履歴書を意識するのは就職活動前の大学生くらいで、いったん職を得た社会人がそれを気にしてどうこうすることはあまりない。ましてや中間管理職以上の人が履歴書をアップグレードする目的でボランティアに精を出すなどほとんど聞かない話だ。
転職が日常的な米国では話が異なる。労働局の2019年のデータによると、後期ベビーブーマー(1957年~64年生まれ)の米国人は18歳から52歳までの間に平均で12・3種類の職に就いた。2・8年に一度転職した計算だ。また、年齢が若い時ほど一つの職にとどまる期間が短く、24歳までの6年間に5・7回転職している。「石の上にも3年」たち、そのころからようやく一人前扱いされる日本とは大きく異なる雇用スタイルといえる。
職場で身につけたスキルを全て履歴書に加えて上を目指す人を会社側も応援する傾向にある。人が育つゆえんだろう。
日系社会には引退後も生涯かけて履歴書の空欄を埋め尽くす人が多くいる。この姿勢こそ見習いたい。【麻生美重】