林シェフによるセミナーは3日間行われ、2日目のこの日は同館5階サロンで、一般の参加者と報道陣を対象に行われた。
林シェフはまず五つの「基本味」について図や写真を用いて解説した。基本味とは味覚の基本となる要素のことで、「塩味、甘味、苦味、酸味、うま味」の5種類を指す。林氏は「これらはそれぞれが独立した味で、何かを混ぜ合わせて作ることはできない」と述べた。
林氏は「母乳の成分である脂質、甘味、うま味はドーパミンを放出する。『また食べたい』という常習性と満足感を乳児に与える。だからこそ、何カ月もの間、母乳だけで育つことができる」と語った。
うま味には、昆布や野菜、発酵食品(みそ、しょうゆ)など、主に植物に含まれる「グルタミン酸」、肉や魚など動物性たんぱく質に含まれる「イノシン酸」、乾燥きのこに多く含まれる「グアニル酸」の3種類がある。林氏はうま味の特徴として「舌全体に広がる、持続性を持つ、唾液の分泌を促す」の三つを挙げ、うま味が「後味」に影響する要素であると解説した。
後半は林氏が実演を行った。スーパーマーケットで手に入る牛肉を用い、砂糖やしょうゆで和風に調理した。肉を焼く前に1時間ほど常温に戻す、キッチンペーパーで肉の表面を覆って密閉するなどの一手間を伝授。参加者はレシピの写真を撮るなどして熱心に記録した。
野菜を用いた「ミネストローネ風みそ汁」の作り方も紹介した。ネギやタマネギ、ニンニクに含まれる物質が肉の風味と似ているため、これらの野菜を用いるとミートレスでありながら肉を食べているような感覚を残すという。野菜に含まれるグルタミン酸がだしとなるため、水を加えるだけで十分においしく仕上がる。
林シェフは「みそを入れる時に火を消すかどうか」の問いに理解を示した一方で「日本食の堅苦しい決まりがハードルを上げる。水を沸かしてみそを入れる、このシンプルな料理を残していくことが大切。家庭では細かいルールは気にせず、日本料理に取り組んでほしい」と力を込めた。
参加者のセス・レスニックさんは「うま味が5番目の味だと知っていたが、今日のセミナーでさらに興味深い知識を得た」と話した。一緒に参加した婚約者のニナ・ロマンザックさんがベジタリアンであることから「肉を使わなくてもおいしくできるオプションがあると知ってうれしい」と二人はうなずき合い「この秋に新婚旅行で日本へ行くのがより楽しみになった」と笑顔を見せた。
林氏は「すでに世界語となったうま味をもっと深く理解してもらうことが次のステップ。それが日本料理と日本文化の理解につながっていくのでは」と述べ、「まずは海外の人に日本食を知ってもらう。そこから日本国内で粛々(しゅくしゅく)と日本食を続けている料理人につなげる。私の活動はそのためにある」と語る。「店で料理を作るよりも外で伝えることが自分にとってより大切。国益につながる、将来の世代にもつながる。日本料理人として社会貢献できることはこの上ない喜びです」【麻生美重、写真も】