うま味の解説を聞く参加者
 ハリウッドにあるジャパンハウス・ロサンゼルスで2月4日、東京・青山の日本料理店「てのしま」のオーナーシェフ林亮平氏による日本食セミナーが行われた。日本産食材の海外における販売促進と日本食愛好家の拡大を目的とし、すでに世界語となった「うま味」への理解を広めた。同館と在ロサンゼルス日本総領事館、HISインターナショナルツアーズ(NY)の共催。

  林シェフによるセミナーは3日間行われ、2日目のこの日は同館5階サロンで、一般の参加者と報道陣を対象に行われた。
 林シェフはまず五つの「基本味」について図や写真を用いて解説した。基本味とは味覚の基本となる要素のことで、「塩味、甘味、苦味、酸味、うま味」の5種類を指す。林氏は「これらはそれぞれが独立した味で、何かを混ぜ合わせて作ることはできない」と述べた。

乳児を対象にした実験結果
 次に、母乳のみ与えられている乳児を対象にした実験結果を紹介した。野菜スープに甘味、苦味、酸味、うま味を加えたものと、何も加えない5種類を口に入れる。何も加えていないスープはニュートラルな表情だがうま味が加わるとうれしそうな笑顔を見せている。一方、苦味や酸味では明らかに不快な表情。乳児は、苦味から「毒」、酸味から「腐敗」のサインを受け取り警戒するという。大人になるとこれらの味も楽しめるようになり食べ物の選択の幅も広がる。
 林氏は「母乳の成分である脂質、甘味、うま味はドーパミンを放出する。『また食べたい』という常習性と満足感を乳児に与える。だからこそ、何カ月もの間、母乳だけで育つことができる」と語った。
 うま味には、昆布や野菜、発酵食品(みそ、しょうゆ)など、主に植物に含まれる「グルタミン酸」、肉や魚など動物性たんぱく質に含まれる「イノシン酸」、乾燥きのこに多く含まれる「グアニル酸」の3種類がある。林氏はうま味の特徴として「舌全体に広がる、持続性を持つ、唾液の分泌を促す」の三つを挙げ、うま味が「後味」に影響する要素であると解説した。
うま味のテイスティングをする男性
また林氏は、比較的カロリーの高い西洋料理においても、うま味を生かした調理方法を勧める。塩分や脂質が中心の味付けにローカロリーのだしを多く加えることでおいしさの満足度が上がる。バターやクリームを使用するポタージュスープでカロリーを3分の1にまで抑えられた結果を挙げ、味だけでなく健康面でも高い効果が期待できることを示した。
 後半は林氏が実演を行った。スーパーマーケットで手に入る牛肉を用い、砂糖やしょうゆで和風に調理した。肉を焼く前に1時間ほど常温に戻す、キッチンペーパーで肉の表面を覆って密閉するなどの一手間を伝授。参加者はレシピの写真を撮るなどして熱心に記録した。
 野菜を用いた「ミネストローネ風みそ汁」の作り方も紹介した。ネギやタマネギ、ニンニクに含まれる物質が肉の風味と似ているため、これらの野菜を用いるとミートレスでありながら肉を食べているような感覚を残すという。野菜に含まれるグルタミン酸がだしとなるため、水を加えるだけで十分においしく仕上がる。
温かいみそ汁を装う林シェフ
 参加者が試食する間に質疑応答も行われた。料理をする際の「あく」の扱いについて質問が飛んだ。林氏は自身の見解を述べるに留まらず100人のシェフによる実験結果を紹介。「どういう料理を作りたいのかによって、あくの扱い方は変わる」と述べた。
 林シェフは「みそを入れる時に火を消すかどうか」の問いに理解を示した一方で「日本食の堅苦しい決まりがハードルを上げる。水を沸かしてみそを入れる、このシンプルな料理を残していくことが大切。家庭では細かいルールは気にせず、日本料理に取り組んでほしい」と力を込めた。
 参加者のセス・レスニックさんは「うま味が5番目の味だと知っていたが、今日のセミナーでさらに興味深い知識を得た」と話した。一緒に参加した婚約者のニナ・ロマンザックさんがベジタリアンであることから「肉を使わなくてもおいしくできるオプションがあると知ってうれしい」と二人はうなずき合い「この秋に新婚旅行で日本へ行くのがより楽しみになった」と笑顔を見せた。
 林氏は「すでに世界語となったうま味をもっと深く理解してもらうことが次のステップ。それが日本料理と日本文化の理解につながっていくのでは」と述べ、「まずは海外の人に日本食を知ってもらう。そこから日本国内で粛々(しゅくしゅく)と日本食を続けている料理人につなげる。私の活動はそのためにある」と語る。「店で料理を作るよりも外で伝えることが自分にとってより大切。国益につながる、将来の世代にもつながる。日本料理人として社会貢献できることはこの上ない喜びです」【麻生美重、写真も】
砂糖としょうゆで和風に仕上がった肉料理と具沢山の「ミネストローネ風みそ汁」

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