友人たちと小料理屋での会食。キリッとして清潔感のある女将(おかみ)の店に、若く明るい女性が手伝いに入りにぎやかだ。会食の終わりに、話題が子ども食堂の話になった。なんと女将が昼間に子ども食堂を店でやりたいのだそうだ。この辺りは海に近く昔は新開地の下町である。周りには安くてうまい食堂や居酒屋も多い。街の住民とお客の距離が近いのだろう。そんなことからシングルマザーや共稼ぎの家庭もあり、十分に手の廻らない子どもたちも目につくのだろう。
同席した友人が自筆の新聞へのコラム文を送ってくれた。タイトルは「空腹の子らに善意の手を、広がる子ども食堂運動」だ。ネット検索するといつの間にか各地でそんな運動が広がっていた。
バブル崩壊で長い低迷期に入った時、日本式経営の柱とされた永年雇用が崩れ、企業では非正規雇用という不安定・低賃金労働者が当たり前となった。「社員は家族」の意識は遠のき、正規社員と非正規社員・パートが当たり前となり、社員間に階層ができた。そして陽の当たらないシングルマザーやリストラされた人たちの多くがこの非正規社員となったのだ。
武漢発のコロナウィルスが日本にも拡がり、クルーズ船が横浜で上陸禁止になった。さまざまなルートで次々と感染が広がる中、国会は桜を見る会や検事長の定年延長、議員の不祥事を巡って野党の攻勢が続く。感染症にとって一番大切な初期対応は遅れ、所管大臣の国民を守る危機対応の信念や行動も感じられない。
2月末、首相は唐突に全国の学校に臨時休校要請を行った。関連の対策を伴わないこの緊急要請は学校や地方自治体に混乱を引き起こした。シングルマザーや共働きの家庭では、子供の行き場所がなくなり給食も受けられない。あの「子ども食堂」が頭によみがえった。
昔は街でも田舎でも親戚や隣組からの援助の手が伸ばされた。経済が発達し都市化が進んで核家族が増え、行き過ぎた自由競争で人々が支え合う仕組みが壊れたのである。子ども食堂の運動はそれを補う試みかも知れない。弱肉強食の社会は脆い。弱者を救うシステムが今の社会には求められている。【若尾龍彦】