FTCのアソシエート・ディレクター、モニカ・バッカさんは、「詐欺師は常に見出しを追う」、と切り出した。新聞などの見出しになっている社会現象や社会不安をネタに、詐欺師は詐欺を仕掛ける。「今は新型コロナウイルス一色の世の中なので、コロナを題材にお金と情報を取ろうしている」と話す。多いのは治療に関する詐欺で、「奇跡の治療法がある」「ワクチンがある」「ホーム・テスト・キットがある」などと持ち掛けてメディケア世代を狙うケースが多いそうだ。データや根拠が無いのに治療効果をうたうのは、もちろん違法である。
もう一つの題材は政府の給付金で、行政機関を装って近づくことが多いという。
バッカさんは、世界保健機構(WHO)を装ったEメールなど、数種の偽造文書の例を示した。これらのEメールは、よく見ると、どこかに怪しい特徴がある。ドメインネーム(ウェブサイトの名前)の一部にわざとらしく「コロナウイルス」という名が入っていたり、スペルミスがあったりする。「よく知らないEメールに記載されたリンクをクリックしないことが大事だ。誤ってファイルをダウンロードして、コンピューターにウイルスを入れてしまい兼ねない」
最大のアドバイスとして、「給付金に関して、テキストメッセージはもとより、Eメール、電話、SNSのメッセンジャーを通じて政府機関が個人に連絡をすることはないと、覚えておいてほしい」
新型コロナウイルス感染症と「がん」は、詐欺師が好む2大治療詐欺のテーマである。「ホールリーフ・オーガニックという商品は『ビタミンCとハーブ抽出成分は、COVID・19に効果があることが科学的に証明された』と宣伝していたので、FTCが販売を中止させた」と、バッカさん。「また、あたかも中小企業協会と提携しているかのように装った、新型コロナウイルスの中小企業向け融資(PPP)の詐欺があり、FTCが起訴を起こした」と続ける。
これまでFTCは、非常に多くの「根拠のない効能」を宣伝する販売者に注意勧告を送った。マルチネットワーク業者にはコロナ感染症への効果をうたって勧誘しないように、電話会社には、「ロボコールによる新型コロナウイルス詐欺を助長しないように」と勧告した。
一方で、消費者に対しては、苦情を受け付けるだけでなく教育活動に力を入れ、お金や情報をだまし取られない注意を呼び掛けている。
1月1日から5月14日までにFTCに寄せられたコロナ関連の苦情の数は4万5523件で、被害総額は3384万ドル、1件あたりの被害額平均は478ドルだった。一番多い「詐欺」が2万6289件、次が「その他」1万4102件、「なりすまし」3404件、「電話勧誘」2066件と続く。
苦情で一番多い分野は旅行・バケーション(7174件、被害額1268万ドル)だった。キャンセル料や払い戻しに関する苦情がほとんどで、パンデミックで多くの人が旅行をキャンセルしなければならなかった特殊な事情によるものと解釈できる。次にオンラインショッピング(4843件、297万ドル)、電話のテキストメッセージ(1593件、17万ドル)、ヘルスケア分野の健康補助食品/センター/プログラム(1222件、11万ドル)、インターネット情報サービス(897件、66万ドル)と続く。
テキストや電話をしてきた相手に社会保障番号や銀行口座を渡してはいけない、というのも大事な覚え書きだ。「そして、もし怪しい勧誘を受けたら、周りの人に話して相談すること。また、私たちFTCに連絡してほしい」とバッカさんは言う。コロナの詐欺に関する情報はホームページ(www.ftc.gov/coronavirus)で最新情報を掲載しているので参考にしてほしいと話す。
FTCは調査をもとに、独自、またはFDAや連邦通信委員会など関係省庁と協力して注意勧告や起訴を行う。だが一方で、苦情を受けるとウェブサイトを閉鎖して連絡が取れなくなり、別の名前でまた開店する、といういたちごっこの事例もある。
バッカさんは、オンライン商店の信用度はベター・ビジネス・ビューロー(BBB)の評価を参考にすることが、悪徳業者かどうかの判断の材料になる。未着商品の場合は、「非認証の決済」だということを銀行に相談してみるのも手である、とアドバイスした。
コロナ詐欺は、パンデミックによって新たに数が増えたのではなく、これまでの詐欺の舞台が新型コロナに移ったと見ることができる。詐欺師は、人々が不安になったり、解決を求めているところにつけこみ、コミュニティーを選ばずにわなを仕掛ける。
民族コミュニティーの中には独自の民間療法などが信じられている場合もある。バッカさんは、ある質問者のホメオパシー療法に関する質問に、「公衆衛生局の見解、科学的見地では、新型コロナウイルスの治療法は確立していない」と回答した。【長井智子】