精神疾患を持つ家族を支援する全米の団体NAMIのサウスベイ支部所属の日本語グループ「JSSG」(マーク八代代表)がこのほど、「第9回精神障害 心の病を知るためのセミナー」を実施した。 「ホーリズム(全体論)が教えるこころと身体」をテーマに、ロサンゼルス在住のセラピスト、フィンガーマン近藤有里子氏が講師を務めた。
  日本語では「全体論」と訳されるホーリズムという言葉。普段の生活ではあまり耳にすることがないかもしれない。フィンガーマン氏は「個体は孤立に存在するのではなく、それを取り巻く環境すべてとつながっている」というホーリズムの思想を基に、より健やかに日常を送るための方法を解説した。
 
 ・ホーリズムの世界観

 ホーリズムの語源は、古代ギリシャにさかのぼる。南アフリカの政治家で哲学者のヤン・スマッツが論文「ホーリズムと進化」(1926年)の中で初めて「ホーリズム」を言葉として用いたとされる。
 「部分と部分のつながりが互いを補完し合い全体となる」というホリスティックな考え方は日本にも古くから存在する。フィンガーマン氏は「『風が吹けば桶屋がもうかる』『情けは人のためならず、回り回って己(おの)がため』などのことわざや万物に魂があるとする思想、『縁起』『おかげ様』などの仏教的な考え方にも全てのつながりが表わされている」と説明した。
 「全体」には「要素」や「部分」に還元できない独自性がある。それを示す具体的な例に自転車がある。部品がバラバラの状態では乗り物として機能せず、組み立てられて初めて本来の目的を果たすことができる。また、ディズニーランドも「ホーリズムを象徴する場所」として例に上がった。ジェットコースターやティーカップなどの一般的なアトラクション(個)は、ディズニーランドという世界(全体)に含まれることで特別な物となる。
 現代の社会では、この思想を基に、教育、医学、リーダーシップなどの分野で応用が進み、それぞれで効果をもたらしているという。

脳の働きが過多でオフバランスになった人を表すイラスト

・ホーリズムから見た心の健康

 では「ホーリズム」から見た心の健康とはどのようなものか。
 人間を一つの「ホロン(全体)」と捉えると、それは「身体」「脳」「精神」の三つの要素に大きく分けられる。それぞれの要素が調和してバランスよく統合されることで人の健康は保たれる。
 人間の脳は、過去の経験・未来の予測・ 法やモラルを守るといった喜怒哀楽以外の高度な感情を扱うなど、常に稼働している。脳が休みなく働き過ぎると、身体や精神とのバランスが失われてしまう。われわれ現代人は、脳による思考を優先し、身体の感覚を軽視したり感情を抑え込む傾向にある。考え事が止まらずマインド過多によりバランスが崩れている時には、体を動かしたり精神面に注目したりして調和を取り戻すことが大切になるという。
 フィンガーマン氏は「脳のホロン構造」を図解で示し、脳内でどのような作用が起きるのかについて詳しく解説した。

脳のホロン構造を説明するために用いられた「人間の脳のバランス」を表す図

・現代人のホリスティックな心の健康法

 自分というホロンの調和には、 心と身体がリラックスしていて、何にも抵抗を感じていない状態が理想的だ。また、自分を包んでいる自然を意識して暮らしたり、自身を取り巻く環境に貢献したりすることで、生命力、自然治癒力が高い心の状態が得られるという。
 会の終盤には質疑応答が行われた。
 JSSGで初のオンラインセミナーには、他州在住の2人を含む32人が参加した。堀川氏は「サウスベイまでの運転が大変な人にも容易な参加方法を提供できた。技術的な負担を強いないか心配があったが、事前に2度の予行演習を行った。ログインを体験してもらう配慮は心遣いとして正解だったと思う」と述べた。
 コンピューターやスマートフォンなどの機器を利用しないシニア6人は、自宅の固定電話から参加した。堀川氏によると、これらの参加者はプレゼンターが解説するために用いた画像の数々を見ることはできなかったが、セミナー参加を喜び、修了後のアンケートにも高評価を残したという。
 セミナーを終え、セミナー事務局のテリー堀川事務局長は次のように総評した。「パンデミックは全人類に甚大な被害をもたらしているが、『挑戦』には『応戦』することで進化を遂げてきたのもまた人類。NAMI―JSSGが、年来の懸案かつ『夢』でもあったオンラインセミナーを9回目にして実現できたのも、集会禁止の行政命令のお蔭。グループの歴史上記念すべきこと」。
 グループのメンバーとともに今回のセミナーの成功を喜び、10回の節目となる次回の開催へ向け焦点を合わせた。【麻生美重】

 
 

 

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