先月、「骨髄移植と人種の関係」について書いた。移植を待つ患者、骨髄を提供したドナー、骨髄移植の情報を提供する「A3M」、血液の専門医、移植を受け、生きる喜びを日々噛みしめる患者から話を聞き、取材を続けている。
その中で、とても気になることがあった。それは、ドナー登録後に「患者の白血球の血液型(HLA型)とマッチしました」との連絡を受けてから、ドナーを辞退する人が60%にも上るという事実だ。
A3Mではその理由を、「登録から何年も経った後に連絡があることが多く、登録時から生活状況に変化があることや、『やっぱり怖い』と思う人が出てくること」を上げた。
もちろん、ドナーにはいつでも断れる権利がある。しかし、適合者が見つかった時点から患者には移植に備え抗がん剤などの投薬が施されるため、手術直前の辞退は、患者への肉体的、精神的負担が大きい。
ベトナム系のグエンさん(27)が急性骨髄性白血病を発病したのは3年前。大学院を休学、結婚式を延期し、5回もの化学療法の後、再発。生きる希望は骨髄移植のみとなった。
ドナー探しは難航したが、昨年6月に適合者が見つかった。しかし忙しかったドナーの都合で、移植手術は2カ月後となり、その間グエンさんは一時危篤状態に陥るも、一命を取り留め、祈る思いで待った。
約束の8月、そのドナーは登録を解消してしまい、連絡が取れない状態となっていた。解消の理由は分からない。「途中で姿を消してしまうドナーなら、初めから見つからない方がいい」。グエンさんは涙を流しながらそう語った。
その後奇跡的に別の適合者が見つかったグエンさんは、拒絶反応と闘いながらも、ドナーに感謝しながら毎日を大切に生きている。
「多くの人がドナー登録してくれることはとても素晴らしいことだが、周りからの圧力などではなく、自分でしっかりとリスクを把握し、納得いく決断を下してほしい」。グエンさんの力強い言葉に、あらためてドナーとしての心構えを学んだ。【中村良子】