正直言って、日本兵の米軍捕虜虐待を扱った本はあまり読みたくない。
 ところが、今、日本軍の残虐な拷問に耐え抜いた一人の男の人生を描いた本が売れに売れている。
 「Unbroken: A World War II Story of Survival, Resilience, and Redemption」
 著者はローラ・ヒレンブランド。名馬シービスケット物語を著した人気女流作家だ。
 主人公は、カリフォル二ア育ちのルイス・ザンペリニというイタリア系アメリカ人。
 不良少年だったが、走るのだけは群を抜いていた。1936年ベルリン・オリンピックに中距離走のアメリカ代表として出場した。第二次大戦勃発と同時に米空軍に入隊。日本本土爆撃に向かう途中、エンジントラブルで墜落し、マーシャル群島沖を漂流すること47日間。日本軍に捕まり、連行された。
 撃ち落とした米爆撃機パイロットだけを収容する大船収容所に入れられ、終戦まで過酷な拷問を受けた。
 戦後、帰国したザンペリニは、自分を目の仇にして苛め抜いた「ワタナベ・ムツヒロ伍長」への復讐心に燃える。
 が、著名な伝道師、グラハム師の集会に出て、キリスト教に入信する。
 自殺した「ワタナベ」とは再会できなかったものの、「今は彼に対する復讐心はない。安らかに眠ってくれ」とのメッセージを「伍長」の母親に送るところでストーリーは終わっている。
 こんな本がなぜ売れるのか。
 知日派の米ジャーナリスト、ピーター・エニス氏はこう見ている。
 「確かに日本軍の捕虜収容所の実態が生々しく描かれている。が、『反日』とはそれほど関係があるとは思えない。一人の英雄について、人気作家が書いたことが売れている理由だろう」
 「反日」かどうかはともかく、一読をお勧めする。【高濱 賛】

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