大阪地裁は3月16日、2010年6月に自室マンションで3歳の桜子ちゃんと1歳の楓ちゃんを放置し、死亡させたとして、母親の下村早苗被告(24)に懲役30年の実刑判決を言い渡した。
 この事件は、離婚後シングルマザーとなった下村被告は子育てが嫌になり、わずかな食料だけを残し、猛暑にもかかわらず、部屋に粘着テープを張り、放置したまま複数の男性と遊び歩き、約50日間帰宅しなかったため、2人を餓死させた。ごみだらけの部屋で桜子ちゃんは食料を探し、カップめんの残りを食べ、冷蔵庫の中にわずかにあった調味料をなめ、小さな弟に分け与えていたという。2人は排泄物にまみれ、遺体として発見された。
 予兆はあった。09年に桜子ちゃんは虐待の恐れがあるとして、一時愛知県警に保護された。事件の起こる数カ月前には虐待ホットラインに3度通報があった。いずれも職員が下村被告と連絡が取れなくなり、調査を打ち切っている。なぜ防げなかったのか。
 08年に児童虐待防止法が改正され、児童相談所の職員は子供の安全のために鍵を壊すなどして強制的に家に立ち入り捜査する権限が与えられたが、11年度現在での実施は3件。制度の使いづらさ、職員の人手不足、専門性や知識不足等の問題が指摘される。
 警察との連携や各自治体の取り組みが進められているが、厚生労働省の統計によると5歳未満の子供の虐待死が全体の9割を占める。住居不可侵の前提があるとはいえ、手遅れになる前に、被害者の年齢に応じて迅速に対応すべきだろう。また、全国の関係機関が同じ情報を共有できるネットワーク構築も急がれる。一方で、住民が子供の虐待を見逃さず、通報義務を怠らない、社会全体で子供を育て、守るという意識を徹底させることも重要だ。
 30年後、出所した彼女を待ち受ける世間は厳しいだろう。しかし、真っ暗な部屋で「ママー」と叫びながら、恐怖と空腹、喉の渇きにもがいて亡くなった2人の子供の地獄の苦しみに比べれば、どうということはない。【下井庸子】

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