キリン・ブルワリー・オブ・アメリカ社長
山田崇文さん

 ビールを3回に分けてグラスに注ぐ「3度注ぎ」。麦本来の甘みが引き立ち、芳醇な香りが口の中に広がる―。おいしさがもっとも引き立つ注ぎ方といわれている。準備するのは清潔なグラスとビールだけ。誰でも家庭で簡単にできるこのキリンビールが推奨する注ぎ方を、キリン・ブルワリー・オブ・アメリカの山田崇文社長に伝授してもらった。【取材=吉田純子】

ビール「3度注ぎ」紹介

【手順1】高い位置からビールを注ぎ出来るだけ泡を作る
【手順1】高い位置からビールを注ぎ出来るだけ泡を作る
①1回目はまず高い位置からビールを注ぎ、出来るだけ泡を作る。この時グラスは傾けず、テーブルに置いたまま注ぐ。「こんなに泡立てていいのか」と思うほど勢いよく注ぐのがポイント。グラスが泡でいっぱいになるまで注ぎ、今度は泡が半分程になるまで待つ。
②泡が半分まで減ったら、2回目は普通に注ぐ。グラスに一杯になるまで注ぎ、もう1回待つ。ここからが我慢のしどころ。ここからビールが上にあがらなくなる。ここでは泡が3割ほどになるまでじっと待つ。
③3回目は、グラスから泡が2センチくらいはみ出るまでそっと注ぐ。これで出来上がり。
 ビールはよく冷やしたものを選び、細いグラスの方がきれいに泡が立つという。


コクの秘密
科学的には

【手順2】泡が半分まで減ったら、2度目は普通に注ぐ。グラス一杯になるまで注ぎ、もう1度待つ
【手順2】泡が半分まで減ったら、2度目は普通に注ぐ。グラス一杯になるまで注ぎ、もう1度待つ
 炭酸は上に上がると味がまろやかになる特徴がある。ビールの白い泡は炭酸だが、二酸化炭素だけでできているのではなく、ビールの苦味成分と炭酸がくっついて白い泡になっている。炭酸ガスが苦味成分をつけて上がっていく際、ビールの苦みや雑味も一緒に上がるので、素材本来の麦の香りが引き立ち、味がまろやかかつコクがでるのだそうだ。
 キリンビールのブランドで特に三度注ぎに適しているのが「一番搾り」と山田社長。ビールは副原料を入れて味を整え、飲みやすくしているものが多いが、麦本来の甘みや香りを味わいたい場合は麦芽100パーセントがおすすめだという。一番搾りは麦芽100%モルトで作られており、米やコーンなどの副原料は一切入れずに作られている。三度注ぎをすると、さらに麦本来の香りが引き立つのだそうだ。

浸透難しい「3度注ぎ」
「泡嫌いの米国人にも」

3度目はグラスから泡が2センチ程はみ出るまでそっと注ぐ
3度目はグラスから泡が2センチ程はみ出るまでそっと注ぐ
 3度注ぎはキリンビールが独自に開発した飲み方ではなく、泡をしっかり立てて沈ませてから注ぐ飲み方は広く世界的にあったようだ。「各社スタイルは若干違いますが、アンハイザー・ブッシュ社の本社に行った時もこれに近い飲み方のアドバイスを受けました」と山田社長。
 ビールの味が一変する3度注ぎだが、米国での浸透はなかなか難しいそう。なぜなら、米国では出来るだけ泡を立てずに注ぐのが主流。泡が多いとお得感がなくなるため、嫌いな人が多いのだ。
 「まずは日本人、日系人に広める。彼らが『おいしい』と言っている姿を見たら、日本のビールを知らない人にも泡の味わいを知ってもらえると思う。少しずつですが、地道においしさを広めていきたいです」。米国人への3度注ぎの紹介はこれからだ。


山田崇文さん略歴

「3度注ぎ」を伝授してくれたキリン・ブルワリー・オブ・アメリカの山田社長
「3度注ぎ」を伝授してくれたキリン・ブルワリー・オブ・アメリカの山田社長
 大阪府出身。1991年慶應義塾大学経済学部卒業。同年、キリンビール入社。
 学生時代にキリンビール直営のビアホールでアルバイトを経験。人と人との間に和やかな空気を作り出すビールの力に魅了された。
 神戸支社、東京支社、営業部を経て、キリンビールが日本で展開するバドワイザーやハイネケン、ギネスビールといった海外ブランドオーナーとの窓口を担当。
 2011年5月よりキリン・ブルワリー・オブ・アメリカに着任。

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