「日韓ファミリーイベント」を企画した、ソーシャルワーカーでルーテル教会の牧師のキム・ホンソン氏
 韓国人として、妻が日本人であることに、生きにくさを覚えることもある。特に、日本と韓国の本国同士が慰安婦問題や竹島問題で対立している時は複雑な心境だ。韓国の人と会っても「妻は日本人」と言いづらい。「なんで本国同士の問題に、自分たちが影響されなければならないのか」

 日本に移り住んだのは13歳の時。日本語はまったく分からなかった。少し分かるようになると、子ども心に「自分は他の人と違う」と、心の痛みを覚えた。友人の家に電話をするのも嫌だった。韓国名を口にしたくないのに「どなたですか」と聞かれるからだ。日本の神学校では「日本人じゃなければ分からない」と弾かれ、韓国の軍隊では「半分日本人」と揶揄された。
 そうした痛みを察して、多くの人が助けてくれたが、ソーシャルワーカーになってからは、自分が助ける番だった。アメリカの日韓両コミュニティーの関係を友好的なものにするため、いろいろなことを企画し、推進した。日本人と韓国人が同居する施設での日韓友好委員会の設立や、日韓ハーモニー・コンサートの開催など、試みは多岐にわたった。だが、いったん日韓で対立している問題が表面化すると、努力はいっぺんで崩れてしまう。「友好関係を築くための基盤がない」


1969年、韓国生まれ。83年、日本へ。関西学院大学神学部卒。米国の大学院留学後ソーシャルワーカーを17年。妻・貴子さんとの間に3児
  今月末トーレンスで催す「日韓ファミリーイベント」では、日本人と韓国人の夫婦からなる家族を友好関係の礎として捉える。痛みを覚えながらも、難しい道を一歩ずつ歩んできたキムさんが、その道程でつかんだものを再確認するとともに、そこから次の一歩を踏み出すためのイベントである。
 日本人と韓国人は、コミュニティーのレベルでも、個人のレベルでも、すでにアメリカ社会の一員として、それぞれの良さを生かしながら、調和して生きてきた。その『実』が日韓の夫婦の子どもたち。その子どもたちのために何ができるか。そこを見つめていきたい」
 今年トーレンスのルーテル教会の牧師に就任し、社会的な弱者のために尽くすルーテル派の信条と出会ったことも大きい。「違いは人を排除する理由ではなく、人を結ぶ理由だ」
 言葉をはじめとする子どもたちの教育、アイデンティティーの形成、そうした問題に関して日韓で意見交換し、ファミリー間のネットワークを強めていく。それを踏まえて、日韓ファミリーを、両コミュニティーの友好を象徴するモデルとなるよう促す。
 イベントは、キムさんのこれまでの歩みの結晶とも言える。神の語りかけに応える気持ちだ。「私たちの子どもたちの平和で安らかな笑顔。そこには何の葛藤も対立もない。その境地を目指して進んでいきたい」

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