「やっぱりドン引きしちゃうよね」と仲のいいヨガの先生は言う。パッと聞いて引いてしまう言葉なんて、身近にそうそうない。
 ロサンゼルスで始めたヨガ。いま通っているのはなぜか「New York」の名も入ったヨガスクール。スタジオもキレイでおしゃれ。「LA発」とか「NYセレブに人気」なんていう宣伝文句にめっぽう弱い日本人の心をわしづかみにしているのか、大人気だ。
 しかし、ヨガの発祥はインド。ニューヨークでもセレブでもない。この「逆輸入感」が日本人には心地良くて、ヨガへの不信感をなくしているのかもしれない。
 そのヨガの世界で一番大切にされている神聖な音が「オーム」。この言葉で日本人が思い起こすのはあれしかない。オウム真理教。ドン引きの原因だ。
 忘れもしない20年以上前に起きた教団による一連の事件。信者をマインドコントロールして凶悪な犯罪に駆り立てる。そんな犯罪集団の前身はまさにヨガ教室だったという。
 ある先生が話していた。その神聖な「オーム」の音を看板にしたオウム真理教が日本のヨガ業界にもたらした悪影響は計り知れない、と。かつてはスクールのメンバーになる時に、この教団と関係ないかを確認する人もいたという。
 「抵抗のある人はその音だけ聞いていてくださいね」-メディテーション(瞑想)のクラスでこの音を暗唱するとき、先生たちはこう気を使う。特に初心者向けのクラスや、新しい生徒がいる時に。ある先生は、生徒が引いてしまうから躊躇(ちゅうちょ)してしまうと言っていた。あの事件は今でも尾を引いている。
 先月、20年近く続いたそのオウム真理教の刑事裁判が終わった。殺人罪などに問われた松本死刑囚ら13人が死刑判決を受けた。多くの死傷者を出し、今でも有毒ガスの後遺症に苦しむ人たちがいる。一方で、依然としてその教えを受け継いでいる教団がある。ヨガを入り口にして、信者の勧誘活動をし、社会問題にもなっている。
 ヨガは宗教ではなく、やはり、心身を健全に保つためのもの。人を傷つけたり不幸に陥れたりするものであってならない。自分にもまわりの人にとっても、平和で幸せに暮らせるためのツールであってほしい。【中西奈緒】

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