年末の大掃除で、本棚の隅から、見覚えのない本が出てきた。大判の絵本「夢枕」横尾忠則著。何年も前に日本へ引き揚げたルームメイトが置いて行ったものらしい。正月休みの徒然にちょっと開いてみたことだった。夢一夜、二夜と続く42夜の大人の夢絵日記である。
横尾はイラストレーター、グラフィックデザイナーから画家になった人で、世界で個展を開き、国際的評価も高いが、私の好きな画風ではない。紹介文に「こんな夢は一般の人間がまず見られるものでない」とあるように、どの夢も、奇想天外で(夢だから)、おどろおどろしく、でも恐いもの見たさの興味もあり…。
女の生首を下げた老婆が浴室に現れたり、人間を日本刀で頭からまっ二つに斬るという生々しさ。地面が割れて滑り落ち、UFOはその光で大きな日本地図を描く。神や聖人、宇宙人、三島由紀夫やスピルバーグも現れる。実際書けないような夢もたくさん。どの場面にも本人が眠っている姿が描き加えられている。「夢の中の出来事ですよ」と断わっているかのように。
それにしても、夢って覚めるとほとんどは忘れてしまうものだが、こんなにも鮮明に覚えている人もいるのだ。
私は、脳天気なのか、だいたい楽しい夢が多い。よく見るのは「空を飛んでいる」夢。飛行機ではなく、電信柱のような竹馬でホッピングしていたり、大きなスポンジに乗って、上空を漂っていたり…イグアスの滝を天辺からぐるぐる回りながら滑り降りもした。高校の時には夢の中で、実際に幾何の問題が解けたのはちょっと自慢でもある。
本に刺激されて、意識していたら、最近は鮮明な夢を見るようになった。途中で目覚めた時(たいていは夜中の3時か4時頃)にメモしてみたら、それからは夢の記憶が定かなものになってきた。その中には思いがけない発想や閃きもあるので、ちょっと楽しいゲームになりつつある。
「心の病気」の人に夢日記を書かせる治療法があることを聞いた。いや、夢日記を続けていると、夢と現実の境目が分からなくなるとの報告もあるらしい。人間の脳のメカニズムは摩訶不思議だ。【中島千絵】