以前にも書いたことがあるが、職場の文化教室のなかに日本の家庭料理教室というのがある。
 高級料亭の味でもなければ料理の鉄人と競う技があるわけでもないが、プロの家庭の主婦を自認する、中年をとっくの昔に過ぎた女性二人が、献身的なボランティアに支えられて、プログラムを進行させており、自画自賛ではないが、人気一番のクラスである。
 どうして人気があるかといえば二人のシェフが可愛いわけではもちろんない。これが「食べ物」のクラスだからである。食べ物には人をつなぐ力がある。
 幼かったとはいえ、戦中戦後の貧しかった日本に育った人間にとって、新鮮な食材を必要なだけ使って、日本のおふくろの味を再現させ、参加者に喜んでもらえるこのクラスはぜいたくな娯楽という気持ちさえする。
 プログラムにも予算があるのだから食材に贅を尽くすわけではないが、いかに安くて新鮮な食材を見つけるか、この辺りはプロの主婦の腕の見せ所。
 ましてや相方のインストラクターCさんは自由学園出身で、小学校低学年から料理の基礎のトレーニングを積んでいる。婦人雑誌の付録を片手にオタオタ調味料を量っていた私とは大違いである。
 前回はお袋の味の最たるもの、「肉じゃが」に挑戦した。挑戦といっても過去に何度も料理しており、一通りわかってはいただけに浮気心を起こして、日本の有名な料理研究家のレシピを試してみた。
 忠実に手順を追って出来上がった肉じゃがは、色も味もあっさり上品で薄口。
 試食をしながら二人で顔を見合わせて、「やっぱり肉じゃがは、少し下品でも私たちのがおいしいよね。こってりゆきましょう」と意見が一致。
 当日は、肉じゃがはもちろん、焼きナスも餃子も好評で、若い日系女性の参加者から「亡くなった母の料理を思い出しました。ありがとう!」とうれしいコメントをもらって自己満足。
 外はカ氏100度に近い灼熱地獄、室内は冷房が入っているとはいえ、2時間余り火の側で煮物、焼き物に挑んだ二人は…やはりいささか疲れました…が、参加者が帰ったキッチンを片付けながら、もう次のクラスの相談が始まる。【川口加代子】

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