日本シーリズとワールドシリーズが終わりを告げ、選手はやれやれ、と短いオフで英気を養って来シーズンに備える。だが、次がなく引退と隣り合わせの選手たちもいる。残酷にも戦力外通告を受けた男たちだ。
 日本では、そんな後のない選手を集めた12球団合同のトライアウトが毎年実施されている。今月末にはまた、民間会社が主催する実戦形式のトライアウトがあり、注目が集まっている。元プロ、プロを目指すアマ、そしてアメリカのマイナーなど無名選手が参加するトライアウトをなぜ、マスコミが取り上げるのか? 西武、巨人などで通算525本塁打を放った清原さんが監督を務めるとなれば誰もが納得できるはずだ。
 高校時代に甲子園でホームランを打ちまくり、プロでも「ここぞ」という時の勝負強さが光ったスラッガー。だが晩年は衰え、引退後の私生活は落ちぶれ、3年前には法を犯し有罪判決を受けて、かつての輝かしい栄光は台無しに。
 今回のオファーに対し、記者会見では「執行猶予中の身であるので正直驚いた」としながらも、野球に再び携わることができる喜びに満ち溢れ「グラウンド内に入ることさえ許されないと思っていた自分が入れる。本当に感謝の気持ちしかない」と、野球少年に戻ったように素直に表現した。
 「本番」では、ユニホーム姿でベンチ入りして打順の決定や選手の交代などの指揮をとるといい「選手全員に平等にチャンスを与えたい」。ここまでは、監督のお決まりの抱負。だが「選手たちも必死でグラウンドに立つと思うけど、僕も必死でグラウンドに立ちたい」と述べ、自身にとってもトライアウトであることの決意の表れのようで感動した。監督は1試合限りだが「大役で身が引き締まる思い」と力強く語った。この絶好のチャンスを生かしてもらいたい。
 熱望する野球界への復帰は、土壇場の選手と境遇は同じ。選手と監督には九回裏2アウトで追い込まれ打席に立つ気持ちでトライアウトに向ってもらい、ファンは「サヨナラホームラン」に期待をかけ再起への第一歩を見守ろう。【永田 潤】

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