職場を閉じられて、自宅拘束されて早くも1カ月と1週間。テレビを見ても新聞記事を読んでも、新型コロナウイルス関連の記事以外に一体なにがあろう。
 友人、同僚に電話をすれば、ホワイトハウスと州知事のケンカにも不謹慎ながら飽きが来て、出てくるのは食べ物の話ばかり。ところがちょっと心が温かくなる話も無いわけではない。
 職場のアダルトデイサービスのスタッフが、プログラム閉鎖中のクライアントを気遣って、毎日電話で話したり、服薬のアドバイスやリマインドをしているのだが、クライアントの家族から、「あなたたちの給料は安すぎますよ」と言われたという。
 クライアントの中には認知症の人もいればアルツハイマー症の人もいる。センターが閉鎖された日から、1日24時間、週7日、その世話が、みんな家族に掛かってきたわけだ。夜だけ、週末だけ、というわけにはいかない。
 「父が言うことを聞いてくれないし、夜は眠らず大声をあげる。食事も食べたり食べなかったり、目を離せなくて、私はもうくたくたです。あなたたちスタッフはどういう風に父をコントロールしているのですか」
 親のことを一番良く知っているはずの娘のAさんが音を上げているのだ。
 普段は世の中のことにあまり興味を示さない父親も、新型コロナウイルス禍の社会や、家族の不安や緊張感を肌で感じているのかもしれないが、信じられないような言動があり、毎日そんな父親と向き合ってみて、初めてデイサービスの有り難さが分かった。そこで
 「あなたたちの給料は安すぎますよ」
 が出てきたらしい。
 「いつも父の面倒を見てくれてほんとに有難う」
 Aさんは感謝の言葉を残して電話を切ったという。
 「いつセンターが開くのですか? 早く皆に会いたいですよ」という何人ものクライアントの声も聞き、「やっぱり私たちの仕事も役に立ってるのね。私たちだって疲れて文句を言いたい時があるけれど…。早くプログラムを再開したいね」とスタッフのMさん。
 イリノイのロックダウンがあと1カ月延期され5月末までというニュースが入ってきたのはその夜だった。【川口加代子】

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