第48回「アニー賞」のウィンザー・マッケイ賞を受賞したウィリー・イトウさん
 二世漫画家のパイオニアであるウィリー・イトウさんが、このほど開催されたアニメーション業界のアカデミー賞と言われる第48回「アニー賞」のウィンザー・マッケイ賞を受賞した。アニメーションの芸術性や技術の振興、そしてプロフェッショナルの育成を目的とする非営利団体ASIFAハリウッドが発表した。

イトウさんがアニメ作家としての地位を確立した「わんわん物語」の中のレディーとトランプの2匹による有名なスパゲティのキスシーン
 この賞は、コミック・ストリップ(新聞漫画のようにイラストやコマを使いストーリーをつづる作品)とアニメーションの先駆者として知られるアニメーターのウィンザー・マッケイにちなんで創設されたもので、アニメーション業界において、アニメーション芸術への貢献が認められた個人に与えられる最高の栄誉の一つとされている。
 「このような素晴らしい賞を受賞したと知らせを受けたときは、ものが言えないほどびっくりして恐縮した」と本紙英語部の取材に応じたイトウさん。5歳から絵を描くことに興味を持ち、7歳ごろに第二次世界大戦が勃発したため、家族はサンフランシスコの家を離れ、ユタ州トパーズの強制収容所に送られ、その後ワイオミング州のハート・マウンテンに収容された。 収容所では、シアーズ百貨店のカタログを使って、絵の練習をしたことを覚えているそうだ。
 高校卒業後、シュイナード・アート・インスティテュートに入学したイトウさんは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで制作とキャラクターデザインを担当していたイワオ・タカモトさんの下で、初めて働くことになった。2007年に他界したタカモトさんは、「シンデレラ」(1950年)や「眠れる森の美女」(59年)などの作品で知られている。そのタカモトさんがイトウさんに与えたのが、「わんわん物語」の中の、レディーとトランプの2匹による有名なスパゲティのキスシーンだったという。それからイトウさんはアニメーション作家としての地位を確立した。
 その後、イトウさんはワーナー・ブラザースに入社し、伝説的なアニメーターであるチャック・ジョーンズと共に、「ワン・フロッギー・イブニング」や、バッグス・バニーとエルマー・ファッドが出演する「ホワッツ・オペラ、ドック?」などの名作を生みだした。また、フリッツ・フレラングともチームを組み、「プリンス・バイオレント」(後に「プリンス・バーミント」と改題され、バッグス・バニーとヨセミテ・サムが登場した)のレイアウト(画面構成)を手掛けた際、初めて名前がクレジットタイトルに登場したそうだ。
 イトウさんは「宇宙家族ジェットソン」の制作中にハンナ・バーベラ・プロダクションに入社し、14年間在籍している間に「原始家族フリントストーン」や「ヨギ・ベア」などのカートゥーンシリーズを手掛けている。その後、イトウさんはディズニーに戻り、グッズの開発や世界中の若手アーティストの指導に携わった後、45年のキャリアを経て引退した。
イトウさんがアニメ作家としての地位を確立した「わんわん物語」の中のレディーとトランプの2匹による有名なスパゲティのキスシーン
 現在、87歳になったイトウさんは、これまで以上に多忙な日々を送っている。パートナーのシグ・ヤブさんとは、ヤビトゥーン・ブックスの児童書「ハロー・マギー」を基にした短編アニメを共同で制作した。ヤブさんが執筆し、イトウさんがイラストを描いたプロジェクトだ。2人は幼少期にハート・マウンテン・キャンプで出会い、それ以来の友人でもあるという。
 今回の受賞は、アメリカでアジア人に対する反感が高まっている中、タイムリーな賞であるとイトウさんは感じているそうだ。しかし、アニメーション業界には「カラーブラインド(人種的な偏見がないこと)」の歴史があることを強調している。イトウさんは、48年にわたるアニー賞の歴史の中で、1996年に受賞したタカモトさんに続き、日系米国人として2人目の受賞者となる。なお、川本喜八郎、手塚治虫、宮崎駿、大友克洋、高畑勲、押井守など、多くの日本のアニメーターも、同賞を受賞している。
 また、今年のアニー賞では、映画監督、画家、慈善家の堤(ダイス)大介さんが、「トトロの森」プロジェクトや、4年以上の歳月をかけ1冊のスケッチブックを12カ国に回し、参加アーティストが慈善団体に寄付をする「スケッチトラベル」を行った功績が認められ、ジューン・フォレイ賞を受賞した。ジューン・フォレイ賞は、著名な声優で、ASIFAハリウッドの創設者の1人であるジューン・フォレイにちなんで創設された賞で、アニメーションの芸術と業界に多大な貢献をした個人に贈られる。
 堤さんは、ブルー・スカイ・スタジオでビジュアル・デベロップメント/カラー・キー・アーティストとして、「アイス・エイジ」、「ロボッツ」、「ホートン ふしぎな世界のダレダーレ」、ピクサーの「トイ・ストーリー3」や「モンスターズ・ユニバーシティ」のカラーおよび照明のアートディレクションを担当したことでも知られている。また、ロバート・コンドウ監督とともに、短編アニメ「ダム・キーパー」の脚本・監督を務め、アカデミー賞に初ノミネートされた実績を持ち、2014年に、コンドウ監督と共にピクサーを離れ、新しいアニメーションスタジオ「トンコハウス」を立ち上げている。
 今年の「アニー賞」は、合計36のカテゴリーにおいて、総合的な卓越性と個人の功績がたたえられた。【エレン・エンドウ、訳=砂岡泉】

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