
プロのすしシェフを養成する職業訓練学校「スシ・シェフ・インスティチュート」。このたび校長でCEOのアンディー松田氏が二つの新しいプロジェクトを始動し、6月29日にトーレンスの校内で披露イベントを開催した。

新型コロナウイルスが収束しつつある昨今、1年以上のパンデミックで休業や業務縮小を余儀なくされていた飲食業界は、急速に活気を取り戻しつつあるが、一方で人手不足に直面している。松田氏は「われわれのところに『シェフを探している、すしシェフはいないか』と問い合わせがくる。それならばと、すし職人とレストランをつなぐマッチメーキング業務を開始することにした」と「スシ・シェフ・エージェンシー」の発足の動機について話す。
また、もう一つの新業務は、日本では本マグロとして知られる高級魚ブルー・フィン・ツナに特化したVIP向けの「ブルー・フィン・ツナ・ケータリング・サービス」。これについて同氏は、「1本丸ごとを使っていただくことで無駄がなく、高級マグロをすみずみまで堪能いただける」とアピールした。VIPケータリング「The Tuna Chef」のウェブページには松田氏らのチームが顧客の自宅にマグロをケータリングするホームパーティーの様子が動画で紹介され、米国でダイナミックに展開するSUSHIの可能性に感服させられる。

29日の披露イベントでは、3日前にエンセナダ沖で釣られた4フィート長の天然マグロ(重さ推定60ポンド)を50人ほどの招待客の目の前で解体し、ぜいたくに振る舞った。マグロは大型の包丁とハンマーで頭を落とされ、その後、ダイナミックに卸されていく。切り分けられた身はにぎりやカルパッチョとなるためにそれぞれのステーションに送られ、中骨の周りについている身はスプーンでかき出され、その場で「中落ちの手巻き」となり客に手渡された。一連の様子を目を丸くして見つめる招待客はほとんど全員がスマホのカメラを向け、中には自分のSNSページに掲載するためか、なめるように動画を撮り続ける人の姿もあった。
何といってもハイライトは、松田氏が太い中骨を輪切りにして中からスプーンですくい出した骨髄。マグロの中骨の芯に透明のジェリー状の髄があり、それを食せることもおどろきだが、4フィートのマグロから得られる髄はほんの一握りで、その希少価値も特筆に値する。松田氏がショットグラスにリンゴ酢、塩こうじ、

レモン汁、オレンジジュース、酒で調整した「マグロの骨髄のシューター」は、たったの3杯。招待客の中から抽選とゲームで勝ち上がった3人がテイスティングの幸運に恵まれた。その中の一人、フードブロガーのシルビア・ワカナ氏は、目を輝かせながら「食感はジェロみたいだった」と話した。
イベントには、和食技術の振興に寄与するYouTubeの人気番組「Diaries Of A Master Sushi Chef」に出演する寺田博之氏がゲストで参加し、松田氏を補佐した。また、学校関係者のほか、協賛スポンサーもブースを出してイベントを盛り上げた。リビエラシーフードクラブはシーフードを海から家庭に直接届ける日系人イトウ兄弟のファミリービジネス。ブースではヒラマサを提供した。白鶴からは日本酒の試飲に加えて、新発売のカップ酒「CHIKA」のキャラクターに扮した日本人女優がダンスパフォーマンスを披露した。松田氏、寺田氏、スシロボットの3者が対決してにぎりのスピードを競った「にぎり対決」や、格闘家のような体格のシェフや女性が競った「にぎり早食い対決」で会場は沸き立った。招待客はまだ適宜マスクは着用していたものの、新

型コロナのパンデミックから日常が少しずつ戻ってきたことを実感しながらイベントを楽しんでいた。昔と違って今は、もし自分が家族の結婚披露や会社のパーティーにブルー・フィン・ツナでマグロパーティーを催せば、誰もがこうしてエンジョイする時代なのだと実感した。どのぐらい大きな財布を持っていないといけないかは、聞き忘れたのだが。
にぎりのステーションを任されていたのはカナダから来た2人の兄弟の留学生で、イベントの翌日にはすし学校のカリキュラムを卒業し、カナダに戻ってすしシェフとして働くという。スシ・シェフ・インスティチュートのホールに貼られた、活躍する卒業生たちの写真も、誰一人として「江戸前」といえる雰囲気の人物はいない。SUSHIが世界中で愛され、市民権を得ていることを嬉しく感じ、パイオニアとなった先人のすしシェフやスシ・シェフ・インスティチュートの存在に敬意を表した。 【長井智子】
