長年飼っていた犬や猫が死んで悲しみにふける人が少なくない。「ペット・ロス」と呼ぶ。英語では「アニマル・ロス」(Animal Loss)。英米では今や、「ペット」(Pet=愛玩動物)とは言わずに「コンパニオン・アニマル」(Companion Animal=友としての動物)と呼ぶらしい。
 ここ数十年の間に人とペットの関係は大きく変わった。人を取り巻く社会環境の変化とともにペットの存在感が大きくなった。パンデミック禍がそれに拍車をかけた。
 人は寂しさを和らげるためにペットに安らぎを求める。
 とくに犬には他の動物にはない超能力がある。人と犬とが見つめ合っていると、双方の体内で脳の下垂体から「オキシトシン」というホルモンが分泌する。これが人を癒やし、痛みを和らげる。犬は人と同じように喜怒哀楽を読み取れるのである。
 犬が孤独な若者に寄り添い、持病を抱える高齢者を癒やしてくれるのはそのためだ。
 9年間、一緒に生活してきた2匹のハバニーズのうち、弟の「クリスト」が「余命宣告」を受けた。2度手術した前脚のがんが内臓に転移していた。獣医の先生は乾いた声で「クリスマスまでもつかどうか」と言った。診察台の「クリスト」が不安げな目で私を見返す。目で「ボク、どうなるの」と言っている。
 先生はケモセラピーを注射した。その日から細菌感染症治療薬、抗がん剤の霊芝とターキーテール・マッシュルームを飲ませている。
 脱稿時点ではぴんぴんしている。がんの進行がスローダウンしたのかもしれない。
 犬と死別した米国人のうち56%の人が「ペット・ロス」にかかるというデータがある。
 息子、娘のように「独立」することのない「ずっと一緒にいられる家族の一員」が先立つ悲しみで、食欲不振や睡眠障害、強度になると幻覚や幻聴などの症状を起こす。
 精神科医の川崎章光博士は「ペット・ロス患者」にこうアドバイスする。
 「余命を宣言されてからでも遅くありません。『ありがとう』『十分お世話できなくてごめんね』とできる限りこちらの気持ちを伝えることです。残された一瞬一瞬を大切にしてください。死別後、やってくる喪失感を和らげるのに役立ちます」
 いつかは別れねばならない人との関係でも同じことが言えそうだ。【高濱 賛】

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